「レースが終わった翌々日に彼女から電話があって『マラソンは長かった~』と振り返っていました。ゴールのある競技場に戻ってきたときにホッとしたみたいで『トラックの上を走りはじめた途端、もう全身エクスタシ~!』と言っていましたね(笑)」
そう語るのは、世界陸上モスクワ大会の女子マラソンで銅メダルを獲得した福士加代子選手(31)の“親友”野崎比呂貴さんだ。京都市中京区にあるダイニングレストラン『NOZA』のオーナーシェフである彼は、福士選手と5年来の付き合い。彼女の挫折を知っているだけに、今回の快挙に喜びもひとしおのようだ。
「五輪のマラソン代表に漏れるたびに、彼女は落胆していましたからね。普段はお気楽に見える彼女ですが、本当は繊細。そうしたところを隠すために、これまで明るく振舞っていたのかな」
3千メートルと5千メートルの日本記録を保持する日本陸上長距離界のエース・福士選手がマラソンに挑戦したのは08年。トラックで世界との壁を痛感し、日本人でもメダル入りできる可能性を感じての決断だった。だが、北京五輪代表の選考を兼ねた08年1月の大阪国際女子マラソンで転倒を繰り返してしまう。その後のレースでも30キロ以降失速するなど、思うような結果が出なかった。そんな彼女に、野崎さんはこんなアドバイスを与えていたという。
「私のお店にはJリーガーなどいろんなスポーツ選手が来るのですが、彼らはいつも試合前にスタミナがつくようにパスタを食べています。そこで彼女にも『パスタを食べろ!』と勧めたんです」
その効果はてきめんで彼女は見事世界陸上の女子マラソン代表の座を獲得したのだ。今回の大会直前も、福士選手は野崎さんの“必勝メニュー”を持参していたという。
「外国人選手は油分を避けるため、パスタに塩だけで食べているそうです。でもそれだと美味しくないでしょう。そこで『鰹だしなどのめんつゆを持って行って、つけ麺みたいにして食べたらええんや!』とアドバイスしました。実際、彼女は市販のめんつゆを持って行ったみたいですね」
親友の助言が支えた銅メダルだったようだ。