「予定日より1カ月早く生まれたため、内臓が機能しなかったんです。ミルクも受けつけず2,000グラムを切るほどに。先生からも『覚悟してください』と。そんな子がメダルをプレゼントすると言ってくれるんですから、がばい(とても)うれしいですよ」
そう笑うのは、リオ五輪テコンドー女子でメダルを期待される濱田真由選手の母・敦子さん(50)。3人きょうだいの紅一点の真由選手、さぞや大事に育てられたのかと思いきや……。
「私は女の子として育てたことがないんです。大事にしていたのは生きる力。震災や戦争があっても、ひとりで食べていける力を身につけさせたかったんです。近くに吉野ヶ里遺跡があるので、そこで火をおこす体験をさせたり、電気がなくてもごはんが炊けることを教えたり。小1でテコンドーをやりたいと言ってきたときも、お父さんはバレエかピアノをやらせたかったみたいだけど、私は『やりたいならやればいい』という感じでした」
テコンドーにのめり込んでいく真由選手。母の頭の中は3人の子供たちの食事のことでいっぱいだった。
「真由が小学生のころ、お父さんが病気になって生活苦に。あのころは大変でした。お茶碗2杯のごはんに野菜と卵だけのおじやにしたり、大根とにんじんだけのカレーを作ったり。それでも『お肉みたいでおいしい』と食べていました。卵焼きが定番のおかずでしたが、毎日だと飽きるからヒジキを入れたり、青菜を入れたり。貧しかったけど、家族みんなで食べるのは楽しかったですね」
真由選手が高校時代、濱田家では30キロのコメが1カ月もたずに消えていった。真由選手の174センチという恵まれた体も「佐賀米だけでできているんですよ」と敦子さんは笑みを見せる。そして、母はリオに旅立つ娘への思いをこう語る。
「あるときから『頑張れ』と言えなくなりました。だってあんなに頑張っているんだもの。でも試合の前には、愛犬『チビちゃん』にスーパーマンの衣装を着せて、『頑張れ』というメッセージを首輪につけた写メを送りつけてやるんです。それは去年世界選手権で優勝したときと同じ写真。すごいプレッシャーになりますよね」