《やせがえる まけるな一茶 これにあり  小林一茶》

「これは僕のいちばん好きな句です。まるで自分のことを言っているみたいだから」

 

と話すのは、’10年に朝日新聞の俳句コーナー「朝日俳壇」に初入選し、その後、何度も入選を繰り返している俳人・小林凛(りん)くん(12・本名・西村凛太郎)だ。彼は、大阪で母・史(ふみ)さん、祖母・郁子さんと3人で暮らす小学6年生。

 

凛くんは生まれたとき、一般的な赤ちゃんの3分の1ほどの944グラムで生まれた。医師から「命がもつかわからない」と言われたが、命の危機を脱し成長していった。そして、文字を覚え始めた5歳のとき、五七五のリズムを使って突然、表現するようになったという。

 

6歳。凛くんは小学校に入学。しかし体は小さく、脚力や腕力が弱かったため壮絶ないじめを受ける。史さんは何度も学校と話し合いをしたが状況は変わらない。ついに、5年生の1年間を学校に行かせないようにしようと決める。学校へのあきらめもあったが、後ろから足首をつかんで転ばせようとする、階段で体をぶつけてくるなど、エスカレートしていくいじめに”命の危険”を感じたからだった。

 

「俳句という部屋にこもれば、さすがに邪悪なエネルギーは入ってこれない」と、凛くんは考えるようになる。この休学は幸いにも、凛くんの俳句の世界を広げるという結果を生んだ。郁子さんとよく散歩に出かけるようになり、たくさんの題材や季語のもとになるものに出会った。

 

《紅葉で 神が染めたる 天地かな》(9歳)――この句で「朝日俳壇」に初めて入選。凛くんのいちばんのお気に入りの句でもある。では、他の秀作をいくつか紹介しよう。

 

《ゆっくりと 花びらになる ちょうちょかな》(9歳)

《子すずめや 舌切られるな 冬の空》(7歳)

《いじめられ 行きたし行けぬ 春の雨》(?歳)

《成虫に なれず無念の かぶと虫》(10歳)

《かき氷 含めば青き 海となる》(11歳)

 

この春から凛くんは6年生、もう病気以外で学校を休んでいない。1年で身長は10センチほど伸び、声変わりもした。4月末には著書『ランドセル俳人の五・七・五』(ブックマン社)も出版した。最後に記者が、凛くんにとってお母さんはどんな存在かと尋ねた。

 

「……“温かい何か”です」と、そして、史さんに宛てて詠んだ句を教えてくれた。

 

《夏の月 疲れし母を 出迎えて》

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