《中絶を考えられている方へ「産んでくれたら最大200万円相当の援助」があります》
大阪の特別養子縁組斡旋団体「NPO法人全国おやこ福祉支援センター」が「インターネット赤ちゃんポスト」と題する自身のサイトでこう呼びかけ、波紋を呼んでいる。団体はネットで特別養子縁組を斡旋。今後はアプリを使い、子どもを育てられない実親と養子を望む養親のマッチングを予定。紹介サイトには“手軽さ”を強調する言葉が並んでいる。
特別養子縁組とは、児童福祉のための制度。実親が事情により育てられない子どもを養親が引き取り、法的にも親子になる。それに伴い、実親と子どもの法的な親子関係は消滅するというものだ。斡旋団体は国内で15団体ほどあり、都道府県に第二種社会福祉事業の届け出が必要。児童福祉法により、営利目的での斡旋は禁止されている。
大阪市は「人身売買と受け止められかねない」として5回もの行政指導を実施。だが改善はされていないという。また「赤ちゃんポスト」といえば一般的には熊本の慈恵病院を指すが、病院のホームページには《無関係です》との言葉が。200万円援助という表現を使っていること、マッチングアプリで年間15億円程度の収益を見込んでいること、3年で事業を売却予定であることを確認したとして問題視。「運営方針にも隔たりがある」として注意に至ったという。“本家”「赤ちゃんポスト」の慈恵病院・蓮田健副院長はこう語る。
「営利目的という印象を強く持ちました。養親はアプリに月額3千円程度を支払う、成立すれば50万円程度を団体に支払うなど、お金の話ばかり。特別養子縁組は、赤ちゃんや実母さんや養親さんの人生を決めてしまうことになります。だからひとりひとりと向き合い、時間をかけて対応してきました。それをアプリで機械的に決めるなんて、おかしいです。さらに養子縁組は成立したら終わりとはいきません。実親さんや養親さんの心のケア、養子へのサポートをずっと続けていかなくてはならないんです。何もわかってないですね」
そうした批判に対し、「インターネット赤ちゃんポスト」側はどう考えているのだろうか。代表理事の阪口源太氏は本誌の取材にこう答えた。
「批判されることは、ある意味計算通りなんです。知人にも『人身売買の大元締め』と言われましたから。でもそれだけ拡散しているということですし、広告費に換算すると数千万円の効果だと思います。“200万円援助”という表現や赤ちゃんポストの名前を使ったのは、検索される確率を上げるため。それで救われる命がありますからね。援助は、実際にかかった費用を養親さんが補てんするという意味です。出産費以外にも働けなかった分の収入保証、交通費なども含まれます。実際、120万円ほど援助したケースもありました」
もとは中古パソコンのネット通販会社を経営していた阪口氏。転機は、橋下徹大阪市長(46)の『維新政治塾』に参加したことだった。スタートは14年3月。児童福祉の仕事に携わったことは一度もなく、当初は届け出が必要なことさえ知らなかったとのこと。そんな阪口氏だが、これまで8件の特別養子縁組を成立させたという。
「営利目的だといいますが、私は一円ももらっていません。利益が出ても団体の内部留保になり、アプリ開発などのサービス向上に使われます。それに3年で売却するとは断言していませんしね。アプリがダメなんてITを知らないバカが言っているだけ。効率化すればコストダウンになるし、人にしかできないケアに集中できる。中絶を考えている人に経済的援助することへの批判も、じゃあ見殺しにすればいいということでしょうか。無料で何もできないより、お金がかかってでも多くを救えた方がいい。費用対効果の問題ですよ」
主張は平行線だが、論争に決着がつくことは、当面なさそうだ。特別養子縁組に関する法律に詳しい、帝京大学の高橋由紀子教授はこう語る。
「日本では特別養子縁組に関する法律が整備されていません。児童福祉法で禁止行為が定められていますが漠然としているし、あとは厚生労働省が各地自体に指導する通知を出していることくらいなんです。こうした取り組みは国がやるべきです。国は児童福祉施設や乳児院にはお金を出しています。そこの子どもたちを成人まで育てるには1人1億円かかるそうです。なのに特別養子縁組については手つかず。大事なのは、子どもたちが幸せになること。大人の論理で、それがないがしろになることだけはさけてほしいです」
国際的にも、日本の無策は問題視されているという。何が子供にとって幸せか、それを社会全体で考えなければならない――。