「ニシゴリラのドン(オス)は、国内最高齢の47歳です。人間でいえば80代、90代といったところでしょうか。ドンも人間と同じように、風邪をひきやすくなりました。一日でも長く生きてもらおうとケアをしています。でも、ドンが死んだら、当園に新たにゴリラが来ることはありません」
そう語るのは、仙台市八木山動物公園の副園長の阿部敏計さん。7月中旬、平日にもかかわらず同園にはカップルや家族の姿も見られるようになった。両親に連れられた小さな姉妹は、人気者のドンがのっそのっそと歩く姿を、興味津々の様子で観察している。
ミナミシロサイのシンシア(メス46歳)も、国内最高齢。残念ながら、ゴリラ同様、同園では最後の1頭となる。
「シンシアは平均寿命の40歳を超えました。左の脇腹に創傷があって、寝床に出血痕があれば投薬しています。シンシアが死んでも、新たにシロサイを連れてくることはしません。オス1頭、メス1頭のつがいで繁殖が期待できるクロサイに変更する予定です」
同園で人気とされてきたサイやゴリラは、現在“少子高齢化”が深刻だ。同園はほかにも国内最高齢のホッキョクグマのナナ(メス31歳)や、国内2番目に高齢のアフリカゾウのメアリー(メス49歳)を抱えている。だが、これは日本全国の動物園が直面している問題だ。
日本動物園水族館協会の’11年種保存会議資料によると、ニシゴリラは’00年に33頭いたが、’20年には21頭、’30年には7頭に激減すると予測されている。日本の動物園の人気動物たちが“絶滅”の危機にさらされているのだ。
今回、複数の動物園関係者への取材で共通して聞かれたのは、「繁殖の努力をしなかった。動物が死ねば、すぐに海外から買えばよかったから」という反省の声だった。しかしいまは、発展途上国の開発によって野生動物が激減している。経済発展している国との“動物の取り合い”も激化している。
「ここ数年、新興国が多くの動物を購入し、特に中国では10以上の動物園が新規オープンする年もあると聞きます。この“取り合い”は市場原理を生み、希少な動物の値段を、この20年で10〜20倍に高騰させています。たとえば1頭400万円だったホッキョクグマは現在6,000万円に、200万〜300万円だったゴリラは1億円といわれています」(は虫類をテーマにした静岡県の体感型動物園iZooを運営する白輪剛史園長)
仮に高額で動物を購入できても、絶滅が危惧される野生動植物の国際取引を厳しく規制するワシントン条約がある。
「同条約によって、動物の繁殖・研究目的でなければ輸入できないので、1頭だけ購入することは無理です。数頭購入することは金銭的にも難しいですし、群れの動物がストレスを受けない飼育スペースも用意しなければなりません。現実的には、新たに動物を購入することは、一部を除いて不可能に近い状態になってきています」(阿部さん)
大きな転換期を迎えた動物園。10年、20年後も人々を楽しませる施設であり続けるために、いま飼育員たちは懸命の模索を続けている。