「日本はすでに超高齢社会。今後は、ケアが必要な高齢者を抱える家族がどんどん増えていくと思われます。ときにその家族は大きな負担を強いられます。若い世代が、親の介護のために会社を辞めなければならないというケースもあるでしょう。このような時代を生き抜くためには、介護に関する環境設備の知識も、必要になってくると思います」
こう警鐘を鳴らすのは、今回「介護に優しい街」ランキングを監修した、データ分析のスペシャリスト、住環境アナリストの堀越謙一さんだ。
いま親の介護・看護を理由に年間約10万人もの離職者がいることをご存じだろうか。厚生労働省「雇用動向調査」(’15年)によると、離職者が多い年齢層は、男女ともに45〜54歳。まさに“働き盛りの世代”が、毎年介護を理由に仕事を辞めているという現状がある。
「安倍政権は“介護離職ゼロ”の政策を掲げていますが、それを日本中で実現できるのは随分先の話でしょう。家族が要介護になったときにどこに住んでいれば安心なのか。そして親の世話をしながら、安心して働けるのはどこなのか−−。それは現役世代が、最も知りたい情報なのではないでしょうか。そこで今回、国の統計データをもとにしながら、首都圏、都市部の11都府県、約400エリアの市区を対象に、就業率、介護施設数といった指標をたてて集計し、順位をつけてみました」
集計結果から見えてきたのは、財政力や地理的条件も大きな判断要素になるということ。本誌記者は、ランキング上位のエリアを実際に歩いて見て回り、自治体の高齢支援担当者に話を聞いた。
「なぜ都筑区が全国1位に選ばれたのか……。本当にわれわれにも、コレだという明確な理由がわからないんです」と満面の笑みで話してくれたのは、横浜市都筑福祉保健センター高齢・障害支援課長の星信行さん。
本誌分析による「介護に優しい街」ランキングで堂々1位に選ばれたのが神奈川県横浜市都筑区。実は、横浜市18区の中では高齢者が最も少ない区でもある。横浜市全体(18区)の平均年齢が45歳なのに対し、都筑区は40.7歳。つい最近までは平均年齢が30代だったというから、高齢者がいかに少なかったかがわかる。
現在、都筑区内にある特別養護老人ホーム(特養)の数は6つ、介護老人保健施設(老健)は7つある。
都筑区は、’14年に区制20周年を迎えたばかりのニュータウン。区役所がある市営地下鉄「センター南」駅周辺には、ショッピングモールをはじめ、建設中のものも含めてマンションがあちこちに建てられている。さらに、駅からすぐの場所に大型の有料老人ホームが点在していた。
「特養や老健は市の計画に則って建てられますが、民間の有料老人ホームは各事業者さんの判断。そこに“市場性”があるということではないでしょうか。高齢者ご自身から“都筑区に住みたい”と希望されるケースも多いと聞いています」
実際、都筑区に転入する65歳以上の高齢者の数は、ほかの区より多いという。働きながらの親の介護を想定すれば、ある程度の介護施設数が確保されていて、しかも現役世代にとっても住みやすい街となれば、確かに優位。さらに横浜中心部、都心へのアクセスもよいエリアであれば、ベストな選択の1つとなるだろう。
「都筑区はニュータウンですから一般のマンションも次々に建設されています。この街に住み始めた若い世代から、心配だから近くに越してきてほしいと両親に提案するパターンもあると思います。役所の窓口に来られる方のなかには、もちろん『子どもをこの街に呼び寄せたい』という相談もあるのですが、そういった“近くで別々に”という形を望まれているご家族も増えていますね」
都筑区は、将来の介護も含めた“選択肢の多い”街だと言えるかもしれない。