NHKのニュース番組で「預金封鎖」が取り上げられ、話題になっている。預金封鎖とは、国が銀行預金などの引き出しを制限すること。日本でも、昭和21年2月に実施された。当時は、敗戦後に起きた猛烈なインフレで物価が急上昇。おまけに預金封鎖で、自分の預金があっても引き出せなくなり、庶民も富裕層も、困窮を極めた。
さらに国は、預金などの資産に、25〜90%の財産税をかけた。このときの借金は、対GDP比204%。はたしてこれは、戦争直後の特殊な事態なのだろうか。現在起きる可能性はあるのか。経済ジャーナリスト・荻原博子さんに聞いた。
「今や国の借金は1千兆円を超え、国民1人当たり約811万円にのぼります。対GDP比は231.9%と、昭和19年当時より悪化しています(財務省・平成26年12月末)。これらを単純に比較して『今後、預金封鎖が起こるかも』と不安をあおるような声が一部では聞こえますが、私は『預金封鎖など起こるはずがない』と考えています」
その理由は、第1に、国、企業、個人を含めた日本が外国に持つ、資産から負債を引いた対外純資産は、325兆円超あり、23年連続で世界1のお金持ちなのだということ(財務省・平成25年末)。
「第2は、国の借金の大きな要素である国債は、その92%を日銀や銀行、個人など国内で保有しています。外国人投資家が持つすべての国債を売ったとしても、国債が破綻することはないでしょう。第3は、外国での戦争など有事の際に、円が買われ円高になる傾向があります。これは世界が『日本は破綻しない、安全だ』と判断した、信用力が高い証拠でしょう」
つまり預金封鎖は、国が破綻した際にやむなく実施するもので、今、その可能性は限りなくゼロに近い、ということだ。
「それでも不安な方は、国債の金利や円、増税の動向に注目するといいと思います。今、国債は超低金利ですが、それは日本に信用があり、低金利でも国債を買う人が多いから。反対に国債の価格が下がると、金利が上昇します。国債の金利が10%を超えたら、要注意です。もし、日本経済の破綻が近いとなれば、急激に円が売られて円安が進みます。1ドル300円を超えるほど円安になったら、かなり危険です」
また、国には徴税権があるので、国を破綻させる前に、多額の税金を集めようとするはず。となると、やみくもに税金が上がるかもしれない。荻原さんは最後にもうひとつ、警鐘を鳴らしたいと、こう語った。
「昭和21年の預金封鎖は、戦費がかさみ国力を超える借金をしたことが原因でした。今、経済が安定しているといわれる日本も、もし戦争状態に突入したらどうなるかはわかりません。最近は、憲法解釈や集団的自衛権行使などの議論も、行われています。戦争のない平和な時代が続くよう、こうした政府の動向にも、注視していただきたいと思います」