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基準値越えの覆土を使用!?

 

「除染がすんだ場所は、地表1メートル高より、地表面のほうが、線量が低くなる傾向にあるんですが、ここは地表面のほうが高い。周辺に残っている高線量汚染地帯から、新たに汚染物質が飛んできて汚染されたか、覆土用の土自体が汚染されていた可能性もあります。いずれにしてもずさんな除染があった証拠です」

 

覆土用に使われた土の汚染具合を調べるために本誌取材班は、佐藤さん宅の庭3カ所から、表土5センチ部分の覆土された土を採取。土壌中に含まれている放射性物質の量を調べたところ、すべての土から覆土基準(400Bq/kg)の倍を超える1100~1700ベクレル/kgもの放射性セシウムが検出された。

 

「除染した後にこれだけ覆土用の土から高い汚染が確認されたとなると、やはり汚染されている土が覆土されている可能性が高いですね。しかし、土壌の問題は覆土の問題だけではなく、環境省の除染のやり方にも問題があるんです」(小澤さん)

 

指定廃棄物8000ベクレル/kgを越える土が庭に

 

小澤さんは環境省が除染の際、「表土5センチの剥ぎ取り」を推奨しているがそれが間違いだという。

 

「事故後すぐは問題ないのですが、時間がたつにつれて放射性物質が地中深く沈んでいきます。だから、上の5センチだけを剥ぎとっても意味がありません」

 

冒頭で「安全だと言われても、戻れません」と訴えていた浪江町の門馬さん宅の花壇で、0~5センチの覆土を測ってみると、覆土基準の8倍にあたる3385ベクレル/kgの数値が検出された。さらに5~10センチの深さの土を採取して測定すると、国が厳重に保管せねばならない“指定廃棄物”に該当する基準8000ベクレル/ kgを越える8400ベクレル/ kgの放射性セシウムが検出されたのだ。事故後、飯舘村などで除染実験を続けている京都精華大学名誉教授の山田国廣氏もこう語る。

 

「一律で表土5センチ剥げばいいという環境省のやり方は乱暴。1センチずつ確かめながら土を剥ぐべき。手間はかかるが、費用は変わらない」

 

また小澤氏も汚染土のある土地で暮らす危険性を、こう指摘する。

 

「もし、ここで暮らせば、庭に花や野菜を植えたりすることもあるでしょう。少し掘っただけで、指定廃棄物なみの汚染土が出てくるようでは、安心して庭いじりもできません。汚染された土ぼこりを吸い込んだり、根っ子から放射性物質を吸い上げた野菜を食べたりする可能性もあります」

 

今回、明らかになったずさんな除染で、特に問題視された土の扱い。覆土についてきちんと測定しているか、産地は把握しているか、5センチまでの剥ぎ取りで問題ないかなどを環境省に聞くと、以下のような回答が。

 

「5センチ剥ぎ取りついては除染前後で線量を測りながら効果を確認しています。モニタリング結果では、除染の効果は保たれています。覆土については、搬入する前に測定しています」

 

しかし土の産地については「環境省では把握していない」とのことだった。そこで、土をどこから持ってきているのか、福島県内で除染に関わる採石業者に聞いてみた。

 

「ほとんど福島県内から運んできているはずです。富岡や浪江で使う覆土だったら、遠くても南相馬あたりの山が多いのでは」

 

汚染されている場所の近場から採取しているのなら、採ってきた土が汚染されている可能性はないのか。

 

「山の表面ではなく、中心部の汚染されてない土を切り出しています。最初だけ土のサンプルを測定し、基準値以下であるという証明書を付けて出荷しているので汚染の可能性はありません」(採石業者)

 

環境省も除染の採石業者も覆土の汚染についてはきちんと精査していると主張する。しかし、基準から大きくかけ離れた汚染の数値が検出されている以上、見直すべきところは見直すべきではないか。前出の山田氏は、こう指摘する。

 

「除染の覆土用に山から持ってくる土は、目が粗いものが多いので、雨などが降ると地中に放射性物質が浸透しやすい。ですから、中心部からとっても覆土は汚染されていた可能性があります」

 

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除染が終わっていないのに報告書を送りつける

 

環境省のデタラメぶりは、除染の方法だけではない。浪江町の上田ミチさんと夫の隆さん(67)夫妻の自宅の除染が終了したと言われたのは昨年4月。隆さんは、「せめて自分のうちの除染状況くらい知りたいから、除染するときは連絡してほしい」と、事前に環境省に伝えていたが、「結局、連絡もないまま除染が終わっていた」という。その後、隆さんは避難先から頻繁に自宅に戻り、放射線量を測定すると、ピーピーと線量計の警報音が鳴る場所が。

 

「除染したはずなのに、玄関横の洗い場コンクリート表面で、毎時3マイクロシーベルトを超えていました」(隆さん)

 

隆さんが環境省に「まだ高いところがある」と連絡を入れると、「下がるまでやります」との回答があった。

 

「自宅に戻るたび線量を測っていたけど、一向に下がってないから、やりなおしてないんだなと思って待ってたんだ。そしたら昨年の10月末に、『除染は終わりました』って、“除染結果報告書”が届いてね。下がるまでやります、って言ってたのに……」

 

記者が上田さん宅を測定に訪れた際、玄関横の洗い場のコンクリート部分に線量計を近づけると、地表面で依然、毎時2.5マイクロシーベルトを計測。門付近の側溝周辺などでも、同様に高い数値の場所が見つかった。

 

高汚染地域は、町中にも

 

除染の効果が得られていないのは宅地だけではない。常磐線の浪江駅前でも、地表1メートル高で、毎時2マイクロシーベルトを超える場所が点在していた。また、近くに汚染がれき等の焼却施設がある富岡町の復興拠点周辺でも、アパートの玄関前の地表面で、毎時5マイクロシーベルト超え。こうした場所に住民を戻して、健康被害が生じた場合は、誰が、どう責任をとるのか。住民懇談会で中心になって説明を担った原子力災害現地対策本部、住民支援チーム本部長の後藤収氏に、懇談会終了後に尋ねてみた。するとこんな言葉が――。

 

「健康被害は起きないと思いますよ。もし起きたら、そのときに考えます」

 

今回の測定結果を聞いた住民はこう語る。

 

「やはり、孫を連れては戻れません。自宅は解体することにしました」(上田さん)

「基準の8倍なんて。やはりここには住めません。でも、避難指示が解除されたら賠償は打ち切られる。避難先の家賃をどうやって払い続けたらいいのか」(門馬さん)

「安全だというなら、国は明確な根拠を示し、万が一のことがあった場合の補償を確立してほしい」(佐藤さん)

 

除染に希望を持っていた住民は多かったはずだが、ずさんな除染の顛末は、住民に失望だけを与えている。

 

→後編へ続く

 

取材・文/和田秀子

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