両親から虐待を受け、今年3月に亡くなった船戸結愛ちゃん(享年5)。船戸優里容疑者(25)の連れ子だった結愛ちゃんは、再婚した父・船戸雄大容疑者(33)から執拗な暴力を受け続けていた。結果、免疫にかかわる臓器が委縮。同年代の5分の1程度の重さしかなかったという。死亡時の体重は、わずか12kg。あばら骨が浮き出るほどやせていたという。
《もうパパとママにいわれなくても しっかりと じぶんから きょうよりはもっともっと あしたはできるようにするから もうおねがい ゆるして ゆるしてください おねがいします》と大学ノートに“悲痛な叫び”を書き残していた彼女。その死を救えなかった児童相談所の対応が波紋を呼んでいる。
優里容疑者が雄大容疑者と再婚した16年当時、一家は香川県善通寺市に住んでいた。県の児童相談所「西部子ども児童相談センター」は同年12月25日、結愛ちゃんを一時保護。だが17年2月に措置を解除。その後も3月にパトロール中の警察官が結愛ちゃんを再び発見。2度目の一時保護が決定したが、その4カ月後に一時保護を解除しているのだ。
元児相職員で、著書『告発 児童相談所が子供を殺す』(文藝春秋)で知られる家庭問題カウンセラーの山脇由貴子さんは語る。
「2度目の保護で家に帰すなんて、ありえません。1度目は『家の中を安全にする』という約束の下、帰します。つまり“今度やったら帰さないよ”という意味です。2度目に保護されたのは、その約束を守らなかったということ。もう家には帰せないと判断するべきです」
ただ一時保護は児童相談所の判断で実行できるが、期間は原則として2カ月以内。長期の親子分離を行うには施設などへ入所させる措置をとるが、原則として親権者の同意が必要となっている。親権者の同意が得られない場合、児童相談所所長が家庭裁判所に申し立てを行う。そして、承諾を得る必要があるという。山脇さんが続ける。
「もう1つ問題がありました。それは引き継ぎです。2度目に一時保護が解除された後の18年1月中旬、一家は東京都目黒区へと転居しました。こうした場合、香川県の児童相談所から東京の児童相談所へと引継ぎが行われます。その際は電話のみではなく、香川県の児相担当者は東京まで出向くべき。そうすれば、親側も『みられている』という意識がわくもの。しかし、連携したケアは行われていなかったのです」
児相と警察との全件情報共有や活動連携を義務付けるべく、4年前から法改正に向けた活動を行っている「後藤コンプライアンス法律事務所」の後藤啓二弁護士はこう指摘する。
「最大の問題は、品川の児相が放置して警察に協力要請をしなかった点です。結愛ちゃんに会いに行った際、児相は親から面会を拒否された。でも、これはとても危険な兆候です。拒否されても警察に協力を要請すれば、いっしょに家庭訪問して緊急保護できたはずです」
17年に全国の警察が「児童虐待の疑いがある」として児童相談所へ通告したのは、6万5千431件。事件化した虐待の被害者は1千168人で、うち死亡した子どもは58人にのぼるという。後藤啓二弁護士は憤りを隠さない。
「警察は“虐待の疑いあり”との通報があった場合、100%を児童相談所に報告しています。しかし児相から警察への報告は全体の1~5%ほどしかなされていないといいます。縦割りで他の機関からの関与を嫌う“役人気質”が根底にあるとしか思えません。それによって“救えない命”が出てくるなんておかしいですよ」