「ブロードウエー公演でこの役を演じた女優さんも恰幅のいいおばさんで、今回、演出家が私を見るなりビンゴ! って(笑)」
そう語るのは、絶対的な歌唱力と明るいキャラクターで、ミュージカルには欠かせない存在、森公美子(59)。最新作はミュージカル『ゴースト』。強盗に襲われ命を落としたサムは、幽霊として恋人・モリーのそばに現れ見守るが、彼女には存在が伝わらなくて……。
’90年公開の不朽の名作映画『ゴースト/ニューヨークの幻』の舞台版だ。森は、サムを手助けする怪しげな霊能者、オダ・メイを演じる。
「30年近く前に公開された映画は、あまりの感動に、立て続けに3回見たかなぁ。当時、父親を亡くしたのもで……」(森・以下同)
いつもは元気な彼女だが、たちまち目を真っ赤にして続ける。「泣かない、泣かない」と自分に言い聞かせながら。
「窮地に立つと“こんなときに出てきてくれないかなぁ”とか“そばにいてくれたらな”って心底思いました。だけど、夢にも出てきてくれないんだよね」
東日本大震災では、故郷・仙台の親友を亡くした。
「彼女がサムみたいに私を助けてくれることはないけど、どこかで笑ってはくれてる。それが助けになっていて……あ、いけない、またウルウルしてきちゃった」
ラストシーンは感動的だ。
「『お迎えが来たよサム』って言うシーンがあるんですけど、泣いちゃって言えないんじゃないかすっごく心配。そして、サムがスーッと天に昇っていくときの音楽が、それはもう素晴らしいんですよ。音が折り重なっていって」
モリーのように亡くなった恋人の愛に守られていると、次に踏み出せなくなりそうだ。
「だからサムに天からお迎えが来るのよ、きっと。でも、見えなくて話をできなくても、生前とは違う形でそばにいてくれるんだと思う。“幸せな君を見守っていられれば僕も幸せ”と思える教育を天国で受けてるんでしょうね」
愛する人を失った悲しみを乗り越えるヒントが、本作には込められている。
「支えてきてくれた家族や友達を突然失うと失意のどん底に落ちるでしょ。でも、そういう人たちをそばに意識できれば、とっても温かい気持ちになれるんじゃない? それが愛情。すてきよね」
そんな境地にたどり着くまでには、泣いたっていいのだ。