あの世のお金 アップデート新打ち紙
「打ち紙(ウチカビ)」とはご存知の通り、沖縄でグソー(後生、あの世のこと)の通貨とされる紙銭だ。多くの沖縄県民は、「打ち紙」と聞くと、黄土色の紙に古銭が打刻されたものを思い浮かべるだろう。しかし、今回取り上げる「打ち紙」は「進化する沖縄文化」をキャッチコピーにした斬新な製品である。新打ち紙の開発販売元の企業で経緯・意図を聞いた。
あちこちで聞こえるエイサーの太鼓やスーパーの旧盆準備フェアで、旧盆へのムードが高まる8月初旬、新打ち紙を手がける3人の男性をたずねた。話を聞いたのは、株式会社泰陽貿易専務の漢那用哲さん、有限会社上原清吉商会会長の上原清吉さん、有限会社あらかき商事社長の友利浩さん。泰陽貿易が新打ち紙の開発、上原清吉商会が販売総代理店、あらかき商事が発売元の役割をはたしている。
ヒントは海外から
「何を、何のために燃やしているのかわからない人が増えています」
漢那さんが新打ち紙の開発をするきっかけとなったのは、沖縄の若い世代に伝統行事の意義が十分に伝わってない、と感じたことだ。人々の生活スタイルは時代とともに変化しているにもかかわらず、打ち紙だけが数百年前から同じ形のままで継承されていることを危惧した。
一般的な打ち紙は1600年代に流通していた貨幣「鳩目銭(はとめせん)」がモチーフとされているが。この打ち紙が長らくその形を変えていないため、現在の人々はその意義を考えなくなり、単に習慣化された活動になってしまっているという。このままでは打ち紙やお盆のような伝統行事は形がい化し、やがて廃れてしまう。
漢那さんらは、この現状を変えるためのヒントを中国や東南アジアの「打ち紙文化」から得た。
沖縄と同じく、先祖崇拝の文化を持つこれらの国々では、先祖に対し「あの世」で使うためのお金を送るという文化がある。しかし、その内容は多様で、過去の歴史において使用されていた通貨はもちろん、現行の通貨を模したもの、さらにはドルやユーロの紙幣をデザインに取り入れたものまである。加えて、故人への手紙や、故人が生前欲しがったもの(家や車など)の形状をした紙細工を燃やす例もあり、「思い」の表現形式は「送金」という方法にとどまらない。海外の国々では、時代とともに打ち紙の文化も変容しているのである。
次世代に伝えるために
海外の文化から得たアイデアをもとに、現在発売されている新打ち紙は3種。江戸時代に作られた通貨「寛永通宝」がプリントされた「新打ち紙古琉球」。赤い紙に金箔が使用され、豪華な見た目の「古琉球金箔打ち紙」。「琉球冥界銀行」は現行の1万円札をイメージしたデザインになっている。いずれの打ち紙も、燃やした際に灰が飛びにくい素材を使用し、室内で燃やす場合も安心だ。見た目のインパクトもあるので、若い世代や小さな子どもも興味を持つという。
新打ち紙を使用することは、従来の打ち紙を否定するわけではない。先祖も今を生きる子孫たちにもさまざまな人が含まれるのだから、打ち紙も多様であっていい、というのが3人の考えだ。古い習慣をただ続けるよりも、柔軟に形を変えてこそ、文化は生きたものとして継承されていくという。
現在、新製品として、500円硬貨を基にした打ち紙も開発中である。1万円札が基になった製品があるにもかかわらず、それより安い貨幣を作る意図は何だろうか。不思議に思った記者がたずねると、上原さんが答えた。「1万円は大きいからね、あの世の自動販売機でも使えないさ。500円はジュースを買うのにちょうどいいくらいの金額」。新打ち紙は、伝統文化や先祖の存在を身近に感じさせてくれる役割を担っている。
(津波典泰)
有限会社 上原清吉商会
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