今年7月、自民党の杉田水脈衆院議員が月刊誌に「LGBTは『生産性』がない」と寄稿し、直後に谷川とむ衆院議員が「(同性愛は)趣味みたいなもの」と発言したことを受け、朝の情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)のコメンテーターとしても知られているロバート・キャンベルさん(61)は自身のブログで反論を展開。そのなかで、20年来の同性パートナーの存在を明かしている。
現在、東大名誉教授で、国文学研究資料館館長を務めるキャンベルさんの、カミングアウトに対する世間の反響は大きかった。
だか、親しい人にとっては、ずっと昔から周知の事実。キャンベルさん自身も、あえて公表する必要はないと考えていた。
「私は、カミングアウトをしても、しなくてもよかったと今も思っています。ただ、反響が大きく、勇気をもらったという人も多かったので結果としてよかった。杉田議員は、自分の性的指向や性自認をどう表現していいか迷っている若い人や弱い立場の人、その親や親しい人をすごく苦しめることを書いていた。だから、私の経験やバックボーンからしても、それは間違った見解だと、反論しなければならなかったのです」
キャンベルさんの左手薬指には、地模様が入ったプラチナのリングが光っている。
「出会って10年目に作って、お互いに贈り合ったものです。いつもつけていましたが、昨年の結婚式の際に改めて、交わしました」
昨年8月、実父が暮らすNY州のシャロンという町で、市長立会いのもと、キャンベルさんと日本人パートナーの結婚式が行われた。それぞれの好みで作ったため、2つのリングは色も形もバラバラだが、指輪の内側には、交際から10年の記念日の日付と互いの名前が刻まれている。NY州の法律に基づく結婚で、実父の家の庭にテントを張り、キャンベルさんの友人や近隣の人など30人くらいが集まって、2人の結婚を祝った。
コメンテーターとして、ワイドショーで共演していた精神科医・香山リカさんはこう話す。
「一緒に食事をしたときに『パートナーなんです』と紹介されました。すごく自然な感じなので、仕事のパートナーかなと思いましたが、お料理をシェアする雰囲気を見て、親密な間柄だと感じましたね。お互いが対等に、個人を尊重し合う関係に見えました」
キャンベルさんは、そんなふうにさりげなくパートナーを紹介し、家族からも、友人からも、自然にゲイであると認知されてきた。
日本の社会全体が、キャンベルさんを取り巻く環境のようになれば、LGBTへの無知をさらす議員など、きっといなくなるだろう。
「日本という社会は、LGBTをやんわり遠巻きに見ていて、表立っては公認しない。それは波風を立てることはないかもしれないが、当事者一人ひとりの可能性を閉じ込め、開花させないことにつながっていると思います。東京都渋谷区など、各地でLGBTカップルを公認する『パートナーシップ制度』が広がっていますが、自治体単位での小さな成功の実感が広がることで、変わっていくことはあるはずです」
キャンベルさんはそう言うと、澄んだ目を見開くようにしてから、ほほ笑んだ。
「僕が頑張れるのは、パートナーが杖になってくれているからです。刺激し合うこともある。ビビッドな比喩がふさわしい時代もあったけれど、今では人間関係が深まり、質も深まっている。願わくば、僕も彼の杖になりたいですね。パートナーとはもっと一緒に歩きたい。歩いていたいんです」
散歩が好きなキャンベルさん。多忙な仕事が一段落し、時間ができたら、トレッキングに行きたいそうだ。人生の道を並んで歩くパートナーと一緒に――。