記念撮影をするための順番を待つ、スーツ姿の保護者や胸に赤い花をつけた生徒たち。3月5日、淑徳巣鴨高等学校で卒業式が行われた。
「池江さんはご出席できなくて、残念だったでしょうね。校長先生から『池江璃花子さんは、病気のご療養中ですので、本日は出席されません』というご説明がありました。同級生たちもみんな池江さんのことを心配しているんです」(保護者の1人)
そして卒業式が行われていたちょうどそのころ、東京都内にある大学病院を訪れている女性の姿が。池江璃花子選手(18)の母・美由紀さんだった。黒のダウンジャケットにスニーカーという姿。引いていたキャリーケースには、娘への差し入れなども入っていたのだろうか。
すでに池江選手は、病院の無菌室で白血病との闘いを始めているという。
《思ってたより、数十倍、数百倍、数千倍しんどいです。三日間以上ご飯も食べれてない日が続いてます。でも負けたくない》
卒業式の翌日の3月6日、3週間ぶりにツイッターに投稿された池江選手の言葉は衝撃的だった。
“想像していた数千倍のしんどさ”“三日間以上の絶食”……、いつもポジティブ思考で、苦しい練習も乗り越えてきた池江選手が思わずもらした叫び。いったい彼女に何が起こっているのだろうか? 白血病に詳しい江戸川病院腫瘍血液内科副部長の明星智洋先生は次のように語る。
「白血病にもさまざまな種類があり、それぞれ全く治療法が異なります。しかし池江さんの18歳という年齢や、報道されている症状などから推測すると、おそらく急性リンパ性白血病ではないかと思われます。急性白血病には骨髄性のものもありますが、ともに最初の治療では、強力な化学療法を受けることになります。具体的には6~7種類の抗がん剤をミックスして、点滴で投与します」
白血病は血液中の白血球が異常に増加する病気。
「おそらく池江選手がツイートした時点で抗がん剤による治療は2週目を迎えていると思われます。抗がん剤により免疫細胞である白血球が激減した状態になりますので、ちょっとした菌にも感染しやすくなり、身体は大きなダメージを受けます。そのため治療中は無菌室で過ごします」(前出・明星先生)
もともと人間は口内や腸内に多くの菌を持っているが、免疫力が落ちているために、体中に炎症を引き起こすことになる。
「口のなかの粘膜がただれたり、腸の不調により、下痢や便秘も生じます。池江選手が食事を摂れないというのは、抗がん剤の副作用による嘔吐のためでしょうか。ほかの副作用としては髪が抜けたり、インフルエンザのような高熱が1~2週間続いたりすることもあります。もちろん痛み止めや吐き気止めなども処方されますが、つらいことに変わりはないのです」(前出・明星先生)
池江選手が立ち向かっているのは、肉体的なつらさばかりではない。AIクリニック副院長の飯塚聡介先生は言う。
「これまでアクティブな生活を続けてきたのに、無菌室から出られないこと、大量の毛髪が抜けてきてしまうこと、未来が閉ざされてしまうように感じること……。池江選手の“数千倍しんどい”という言葉には、吐き気やだるさといった肉体的な苦しみのほかに、精神的な苦しみも含まれているのだと思います」
無菌室は清潔に保ち続ける必要があるため、面会、持ち込める品、さらに食事なども制約される。
「基本的には加熱された食品を食べます。病室への差し入れもお花や果物はNGとなります」(前出・飯塚先生)
「病院ごとにルールは異なりますが、面会人数も一度に1~2人までで、面会者の私物の持ち込みもできません。面会時間が決まっているケースが多いですね」(前出・明星先生)
そんな無菌室での闘いを見守っているのが、池江選手の身体能力を開花させたという母・美由紀さんだ。
「美由紀さんは幼児教室を経営し、自ら授業も受け持っています。璃花子さんの白血病がわかった後もお仕事は続けていますね。授業の合間に着替えやタオルなど病院で使う日用品の買い物に行ったり、電車を乗り継いで璃花子さんのお見舞いに通ったりと忙しい毎日です」(美由紀さんの知人)
3月11日、池江選手はこんなツイートを投稿した。
《8年前の今日3月11日、罪のない人たちが大勢なくなりました。違う形ではあるけれどわたしは全力で生きます。》
白血病に打ち勝つその日まで、母と娘の全力闘病は続く。