インター出口から進入し、高速道路を数キロ逆走するなど、高齢者の運転による信じられないトラブルが相次いでいる。これを受けて、一昨年、道路交通法が改正。運転免許証の更新時に75歳以上の人は、高齢者講習の前に「認知機能検査」を受けなければならないことになった(75歳以上で信号無視や一時不停止などの違反をした場合は、1カ月以内に検査)。
「日常生活では認知機能の低下に本人も周囲も気づかないことも多い。そこで検査が義務付けられたのです」
こう話すのは『運転免許 認知機能検査ブック』(永岡書店)の監修者で、神経内科医の米山公啓先生。
「高齢のピアニストが名演奏をするように、人の技術のスキルは老化ではあまり衰えません。運転技能も同じです。ですから人は過信するのですが、運転事故に直結するのは、脳機能の中で、とっさの判断力と空間認識力の低下。これは早い人なら40代から衰えだします」
えっ、40代からですか?
「個人差はありますが、40代になると、物忘れを自覚することが多いもの。これは、脳から記憶を取り出してくるスピードが落ちてきている証拠。車の運転に欠かせない、空間認識力も落ちてきます」
空間認識力が衰えると、車庫入れ時の自損事故や、一方通行の標識を見落とすなどのうっかりが増えてくる。
「先日、70代の女性が歩道を車道と勘違いして、数百メートル走行する事例がありました。あれは空間認識力が著しく低下した結果、起きたと考えられます。それ以外にもハンドルを切る加減を間違えて接触事故を起こしたり、一瞬、自分のしていることの判断が遅れることで、一時停止を見逃したり。これらの原因を探ると、じつは認知機能の低下によることが多いんですよ」
日常の生活では、不自由なく暮らせる程度の認知機能障害でも、車の運転では恐ろしい事故を招く可能性があるそうだ。