福木染めで作ったワンピースを着るおもてさん 画像を見る

 

作家・平松洋子さんのエッセイを読むと、いろいろと共感して感極まっておもわず体をくねらせてしまう。例えば“味噌汁におにぎりとたくあん”というシンプルな食卓の風景にさえ、湯気まで感じて生唾を飲んだり、誰もが体験するようなウッカリした失敗に笑ったり、涙ぐんだり。なんでもない日常のエッセンスを追体験して、感情を揺り動かされる。
作品を読んだり鑑賞したりするということは、作家の視線を通して、あらめて世界を認識することなのだ。

 

草花からのインスピレーション

 

おもてゆきさんは京都の出身。高校時代から染織を学び、沖縄の風土に惹かれて沖縄県立芸術大学へ進学したそうだ。在学中の作品には、彼女が沖縄の豊かな自然からインスピレーションを受けたことが伺える。南国の草花は彼女の作品にまばゆい彩りを与えたに違いない。

 

彼女に会ったのは、久茂地川沿いにある「たそかれ珈琲」だった。
やわらかい珈琲の香りに包まれたカウンターで、友人とお茶をしていた彼女は、希望に満ちて明るく光っているような雰囲気があった。初めましての挨拶を交わし、展示されている沖縄の草花をモチーフにデザインされたテキスタイルの作品を紹介して頂いた。選ぶ言葉のひとつひとつが明瞭で作品への思いが伝わってくる。

 

「植物染料で染めることは環境やお肌に優しいかわりに堅牢度(けんろうど)が低いです。」
なるほど。
彼女から頂いた草木染めの冊子にはこう書かれている。

 

「月桃染め。沖縄の伝統菓子“ムーチー”を作るのに欠かせない月桃。防虫・防カビ・殺菌作用があり、アロマや石鹸などに使用されます。魅惑的な白い花を咲かせたあと、なんとも可愛らしいタネをつけます。染料には月桃の根と葉を使いました。月桃の根はそんなに深くありませんが、掘るのは一苦労!葉っぱだけでも染められますが、やはり根を使ったほうが濃い染め液が作れます」

 

「福木染め。沖縄では台風から家を守る防風林として馴染みのある木。本部町の町木でもあり、その名から幸福の木として親しまれています。春には小さな白い花を咲かせ、葉っぱはハリがあり丈夫で、ハガキ代わりに送れるのだとか!染料には樹皮を使うことが多いですが、福木は葉っぱだけでも簡単に染まります。驚くほどよく染まるので、草木染めをやってみたい方には福木染めを一番にお勧めします」

 

分かりやすく愛情のある説明文に、改めて沖縄の自然に触れた気がした。

 

華やかさと透明感

 

福木で染められた黄色い爽やかなワンピースにも心奪われたが、壁の中央に飾られていたサガリバナ(サワフジ)のテキスタイルに目が止まった。オレンジから薄いサーモンピンクへのグラデーションで染められたデザイン。華やかで透明感のある色彩が、梅雨明けの沖縄に咲くサガリバナを蘇らせ、涼やかな和菓子の錦玉(きんぎょく)のように目を楽しませる。

 

この春、彼女は文化服装学院に進学した。これまで身につけた染めの技術を活かし、自分で作り上げた布から衣服を作ることを夢みて。

 

そして私は、夢を叶えた彼女の服を着て沖縄の街を歩く日を心待ちにしている。

 

【おもて ゆきプロフィール】
おもて ゆき
1996年生まれ
2013年京都市立銅駝美術工芸高等学校 染織専攻卒業
2019年沖縄県立芸術大学 美術工芸学部 染コース卒業

 

2011年より、日本の伝統工芸である染織技法を学ぶ。大学卒業後、2019年4月から文化服装学院II部服装科へ進学。服飾について学びながらイラスト、デザイン、染織、ファッションなど幅広い制作活動を行う。
サイトura-omote.com

 

【筆者プロフィール】
本村ひろみ
那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月~金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING 2 」(日曜日 19時~20時)を放送中。

【関連画像】

関連カテゴリー:
関連タグ: