先月、厚労省が再編。統合の検討が必要な全国424の公立・公的病院を実名公表し、波紋が広がっている。医療ガバナンス研究所理事長で内科医の上昌広さんが解説する。
「リストに挙がった病院の近隣に住む人たちの不安は広がり、病院からは実名公表は乱暴だと、反発の声も上がっているようです。確かに不採算であっても周産期、救急、小児、僻地医療などを守るのは公立病院の使命です。一方で、赤字が出ても税金で黒字化されるからという“甘え体質”があることも否めません」
では、赤字の公立病院はどれだけあるのか。ウェブサイト「病院情報局」が発表する、公立病院が医業収益だけでどれだけ自立しているのかを示す「純医業収支ランキング」によると、全国776の病院のうち、なんと赤字病院は756、合計赤字額は5,600億円を超える。
一方で、全体のわずか3%にも満たないが、黒字を達成している病院が20ある。
【1位】群馬県・公立七日市病院/収支率:7.00%、黒字額:1億2,500万円
【2位】岐阜県・大垣市民病院/収支率:5.60%、黒字額:18億1,900万円
【3位】新潟県・南部郷厚生病院/収支率:3.30%、黒字額:700万円
【4位】鹿児島県・垂水中央病院/収支率:3.10%、黒字額:6,400万円
【5位】岩手県・岩手県立中部病院/収支率:3.00%、黒字額:3億5,500万円
【6位】鹿児島県・霧島市立医師会医療センター/収支率:2.70%、黒字額:1億3,500万円
【7位】愛知県・春日井市民病院/収支率:2.20%、黒字額:3億4,200万円
【8位】岐阜県・美濃市立美濃病院/収支率:2.10%、黒字額:5,200万円
【9位】愛媛県・宇和島市立津島病院/収支率:2.00%、黒字額:2,400万円
【10位】大分県・大分県立病院/収支率:1.80%、黒字額:2億8,600万円
【11位】京都府・京都中部総合医療センター/収支率:1.50%、黒字額:1億5,000万円
【12位】群馬県・公立富岡総合病院/収支率:1.30%、黒字額:1億1,700万円
【13位】石川県・公立羽咋病院/収支率:1.30%、黒字額:4,200万円
【14位】三重県・松阪市民病院/収支率:1.20%、黒字額:1億1,300万円
【15位】山口県・光市立大和総合病院/収支率:0.80%、黒字額:1,800万円
【16位】岡山県・備前市国民健康保険市立吉永病院/収支率:0.70%、黒字額:1,200万円
【17位】三重県・市立四日市病院/収支率:0.60%、黒字額:1億1,700万円
【18位】滋賀県・近江八幡市立総合医療センター/収支率:0.60%、黒字額:6,700万円
【19位】群馬県・伊勢崎市民病院/収支率:0.10%、黒字額:700万円
【20位】岩手県・岩手県立中央病院/収支率:0.00%、黒字額:600万円
「“公立病院だから、赤字があって当たり前”という考えが、コスト意識の低さを招くんです」
そう語るのは大阪急性期・総合医療センターなど5つの病院を統括する大阪府立病院機構の理事長・遠山正彌さんだ。
「公立病院の場合、医療機器は民間病院と比べ、割高な見積もりになることもありますし、たとえ安くても、維持費を高く設定されていることもあります」
ほかにも、経営赤字を招く公立病院ならではの理由があるという。
「公立病院の事務員は役所からの出向です。なので、せっかく病院経営を学んでも、2〜3年で異動になるため、人材が育てにくい。また、医師の給料は成果にかかわらず、年功序列で上がっていくので、医師のモチベーションが低いケースも。かつては、自分の診療科のベッドが埋まると、他科のベッドを調整せずに、入院を断ってしまう医師もいました」
そこで、遠山さんはまず“患者ファースト”の精神を徹底した。
「医師の個人的な都合が反映されないよう、すべてのベッドを管理する担当者を立てました。また、救急は基本的に断らず、国際がんセンターでは、紹介状なしの駆け込みでも受診できるようにしています」
まず患者の信頼を回復。コスト意識を持たせ、5つの病院で130億円あった赤字は、約半分まで減ったという。