オリンピックイヤーが幕を開けた。姉妹で金メダルを目指す2人、レスリング女子代表選手の、川井梨紗子選手(25・ジャパンビバレッジ)と川井友香子選手(22・至学館大学・以下姉妹は敬称略)に注目が集まる。
小学2年生でレスリングを始めた2人は、元選手の母・初江さんに鍛えられて成長してきた。「ママと呼ばずに先生と呼びなさい!」。その厳しさに反抗したことはあったが、今も試合会場に駆けつける母に励まされて、梨紗子はリオで金メダル。妹の友香子共々代表争いを勝ち抜いて、2人は姉妹揃って東京五輪代表選手に内定している。
しっかり者の姉と飄々とした妹。性格が全く違う2人が母とともに歩んできたレスリングの道。その道のりを辿ろう。
姉妹の両親はともにレスリング経験者だ。母の初江さんは全日本選手権で優勝2回などの成績を持ち、結婚後は地元の子供達にレスリングの指導をしていたものの、娘たちが習うことには反対していた。
「よほどの覚悟がない限りはやらせようとは思いませんでした」
しかし、転機が訪れる。
父に軽い気持ちで大会出場を提案され、小2だった梨紗子は試合に出たが、相手の男の子にあっけなく負けたのだ。
「レスリングやる!」
泣きながら宣言した梨紗子。それが全てのはじまりだった。
一方、妹の友香子は体を動かすことが好きではなく、レスリングには全く興味がなかった。
「梨紗子たちが練習を始めたときは『あ?、友香子もやるはめになっちゃうじゃない』と思っていました。仕方なく始めたんです」(友香子)
母の練習は厳しかった。
「私には特に厳しかったです。他の子は褒めるのに、同じことを私がしても褒めてくれない」(梨紗子)
面と向かって歯向かってくる梨紗子を初江さんは「歯向かうのは、私を先生と思っていない証拠ね」と、突き放した。道場では「先生」と呼ばせた。試合に負けた梨紗子が「ママ……」と駆け寄ろうとするとすかさずたしなめ、「ママじゃない、先生でしょ」。
「かわいそうだなって思いもありました。他の子は、試合で負けても泣きつける保護者がいますが、うちの子たちには『先生』である私しかいないんです」(初江さん)
それでも心を鬼にして娘たちの指導に当たった。
「一度、親子の甘さを出してしまうとレスリングにも甘さが出てしまう。いずれわかる時が来ると思っていました。練習では厳しく接していた分、家にレスリングを持ち込むことはしませんでした」
厳しい練習の中、梨紗子がレスリングに真剣になったきっかけは全国大会だ。初出場は小4だが、2年連続で1回戦敗退だった。
「同じチームの男の子がメダルを取ったんです」
そしてコーチの初江さんにメダルをかけてあげたという。目の前で大喜びをしている母を見て、梨紗子は思った。
「自分でお母さんにメダルをかけてあげられたら、気持ちいいかな」
梨紗子の心にギアが入った。残る全国大会は小6時の一回のみ。立ちふさがったのは、何度も戦って勝てなかったある選手。しかし、本気になった梨紗子は見事その選手に勝利し、準優勝。初めてメダルを勝ち取ったのだ。
「(母にメダルをかけると)すごく喜んでくれました。準優勝の悔しさより、メダルを取った喜びの方が嬉しかったです」
母の笑顔がモチベーションになるのは、今も昔も変わらない。
梨紗子がリオ五輪で金メダルを取って母の首にかけてあげたときの様子を、妹の友香子はこう語る。
「みんなで泣きました。もともと尊敬していたけれど、やっぱりすごいと思いました」
「姉妹そろって東京五輪を目指して、うれし泣きできたらいいね」
そう言ったのは梨紗子だ。
“姉妹で五輪に内定”という夢は叶った。次の夢、“姉妹で勝ち取った金メダルを母にかけたい”という念願へのカウントダウンは、もう始まっている。大事な家族の嬉し涙は、何よりの活力になるだろう。
「女性自身」2020年1月21日号 掲載