「(新型コロナウイルスの拡大について)日本だけでなく、世界経済全体への影響が懸念されている」
日銀の黒田東彦総裁は、2月4日に開かれた衆議院予算委員会で、そう語った。’03年に感染が広がったSARSのときと比較できないほど中国市場は拡大しているため、その損失は計り知れないという。
では、私たちの家計にはどのような影響をもたらすのか。第一生命経済研究所・首席エコノミストの永濱利廣さんが解説する。
■大打撃は観光業だけじゃない……メーカーも夏ボーナスは望み薄
「去年1年間に日本を訪れた中国人旅行客は959万人で、全体の約30%。終息しない状況が続けば、訪日観光客による消費は損なわれるばかり。中国人観光客をメインに扱う旅行代理店の中には、倒産する会社も出てくるかもしれません」
しかし、他業種もコロナウイルスの影響を受ける、と続ける。
「いまは、経営者と労働組合が賃金交渉をする“春闘”の時期でもある。米中貿易摩擦や消費増税などが続き、ただでさえ“今期の業績アップは厳しい”といわれていました。中国に拠点を置く企業は、ベースアップはもってのほか。夏の賞与も、例年を下回る結果になるのではないでしょうか」
中国に工場や店舗を持つトヨタや、訪日観光客がこぞって商品を買うような商品メーカーであるファーストリテイリング(ユニクロ)などの株は、すでに下落している。メーカー企業に勤める社員にとって、今年最初のボーナスは“雀の涙”になるかも……。
■中国工場操業停止で、ねぎ、ごぼう、冷凍野菜が高騰する!
「中国では現在、政府の命令によって、一部の食料品生産工場が操業を停止しています。その中には、日本に輸出している生鮮野菜や冷凍野菜を加工している工場も。中国からの輸送手段である飛行機や船などの立ち入りが規制されるようになると、これらの食品は品薄状態に陥ることになり、価格の高騰が懸念されます」
財務省の最新の「貿易統計」によると、野菜で最も取引総額が多い輸入相手は中国。玉ねぎ、にんじん、ねぎ、ごぼうに関しては88~100%、中国から輸入している。
「’16年、ねぎを日本に輸出している福建省が自然災害に見舞われ輸出がストップした際、中国産ねぎの価格は約4割上がりました。今回、それを超える値上がりの可能性も捨てきれません」(社会部記者)
■原油価格は暴落――ガソリン代、電気料金、国産野菜は値下がり
「世界経済に不安がもたらされていることもあり、原油の先物価格が暴落しています。すでにその影響は、ガソリンの価格に表れています。原油の価格を反映して決定される電気料金も値下げすることが考えられます」(永濱さん)
’19年秋ごろから上昇の一途をたどっていたガソリン価格は、2週連続で下がっている(2月4日現在で1リットルあたり151.2円)。
「このまま原油価格の低迷状態が続けば、ガソリン代は142円台まで下がるのでは、と試算する専門家もいるほどです」(社会部記者)
ガソリン代が下がれば、国内市場に流通する商品の輸送・運搬費用が抑えられる。
「物流のコストが下がれば、国内で生産・消費される野菜や雑貨の価格が下がると見ています」(永濱さん)
経済面でいえば、悪いことばかりではないようだが、感染してしまっては元も子もない。正しい知識と情報をもとに、感染をしっかりと予防する姿勢は怠らないようにしよう。
「女性自身」2020年2月25日号 掲載