「日本にウイルスを上陸させない“水際対策”は早い段階で、破綻していた」
そう指摘するのは、医療ガバナンス研究所の理事長で内科医の上昌広先生。
新型コロナウイルスの存在が発覚した当初、空港では熱を感知するサーモグラフィという装置を使って感染の可能性がある人を見極めようとしていた。だが、最初に国内で感染が確認された中国人男性は1月6日に入国したとき、解熱剤を服用していたため、空港の検疫をパスしたのだ。
「東大医科研の研究グループの調査では、’09年の新型インフルエンザの際には、空港検疫で8人の感染者を見つけた一方で、113人の感染者を見逃したという結果がでました。それほど、信頼できるものではないんです」
今回の新型コロナウイルスに関しても、1月の段階で多くの感染者が日本に上陸していた可能性が高い。1月28日、武漢市から来たツアー客を乗せていた奈良県のバス運転手の感染が確認されたのを皮切りに、国内での感染例が続々と明らかになっている。
上先生は早い段階から、“疑わしい人”と希望者全員の検査を行うべきだと主張してきた。感染者がクリニックに殺到したら、クリニックを舞台に感染が拡大するという懸念もあるが……。
「検体採取キットを送り、患者から検査会社に郵送してもらえばいい。結果は、メールや郵送で伝えることができます。中国では実際に遠隔診断が行われています」
だが、こうした提言には日本政府は耳を貸さず、誤った対応を繰り返してきた。その象徴といえるのが、2月19日に下船が認められるまで14日間にもわたって“隔離処置”されたクルーズ船、ダイヤモンド・プリンセス号だ。上医師は早い段階から、“全員検査”をして下船させるべきだと主張してきたが、当初、政府は頑なに症状のある人の検査しかしなかった。
「欧米などクルーズ船が多く運航している地域では、限られた空間に感染者がいれば、感染拡大することは常識として知られています。イギリス領だった香港では4日で検疫を終了し、乗客を下船させました」
その結果、香港では乗員乗客3,600人のうち、感染者は29人にとどめた。一方でダイヤモンド・プリンセス号は、2月24日の時点で600人を超える感染者と3人の死者を出したのだ。
「いま明らかになっている感染者は氷山の一角でしょう。自覚のないままに感染した人が相当数いると考えるのが妥当です。水際対策の失敗が明らかになった時点で、より速やかに“感染を広げない”“死者を出さない”対策に舵取りするべきでした」
一刻も早い“全員検査”が求められる。