久米島町内の家畜人工授精師が種付けした「安福久」の血統を持つ牛の一部でDNA検査により親子関係の不一致が確認されている問題で、昨年6月の段階で「血統矛盾」の報告が久米島家畜市場にあったことが12日、分かった。DNAの不一致は昨年6~12月に計4頭の報告があり、このうち2頭は購入先の福島県と鹿児島県の農家からだった。人工授精の不適正管理の問題は県外にも影響を広げる可能性が高く、県家畜改良協会は「県外への追跡調査も関係機関と調整する」との考えを示した。
県畜産課も12日、「県内肉用牛の信頼に関わる問題」として、県内全授精師を対象に違反がないか調査をする姿勢を示した。
昨年、購入農家から報告があった4件のうち2件は、同じ人工授精師(48)が種付けを手掛けた牛だった。JAおきなわと久米島和牛改良組合は同授精師が関わった69頭のDNA検査を1月下旬に始め、12日までに検査を終えた27頭のうち6頭でDNAの不一致が確認された。
JAおきなわによると、2月に県畜産課が同授精師に立ち入り調査を実施したところ、人工授精の際の台帳がないなどの不備が発覚し、県中央家畜保健衛生所が指導文書を交付している。一方で、昨年6月にDNAの不一致が最初に報告されて以降も、久米島家畜市場を運営するJAおきなわは、2カ月に1回の競りを通常通り開催し、安福久血統の牛の出品も続いていた。この間にも、血統矛盾の疑いがある子牛が県内外の購買者に販売された可能性がある。
JAおきなわは12日、普天間朝重理事長のコメントを出し、「子牛の購買者が不安感や不信感をもたれることについてJAとしても心配している。子牛の価格にも影響を与えることを懸念している」と今回の事態に遺憾の意を示した。
一方で、今年1月まで競りの開催を継続してきたことについては「人的ミスによる事故であると判断し、市場の開催を継続してきた。人工授精師が提出する証明書も正しいものとの前提で競りを行っているため、防ぐことは困難」との見解を示した。その上で種付けを手掛けた子牛がDNA検査の対象となっている授精師に対し、競りへの参加を禁止する措置を取る方針を示した。
JAおきなわは久米島町内で全頭のDNA検査を実施する方向で県と調整している。検査にかかる費用は県とJAで一時的に補助することを検討する。DNA検査後、授精師に損害賠償を求めることも検討している。
(石井恵里菜、真崎裕史)