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飲食業や観光業の窮状、あるいは医療関係者の奮闘はあらゆる媒体で日夜報じられているが、それに比して、見落とされがちなのが介護事業者だ。いま、現場は非常に厳しい闘いを強いられている。

 

「おそらく4月初旬の入所者が感染されていたのだと思います。4月22日ごろから10人の入所者が発熱し、PCR検査をしたところ、9人が陽性反応。残念ながら、最初に感染した入居者は亡くなってしまいました」

 

そう話すのは、特別養護老人ホーム「北砂ホーム」(東京都)の回診担当医をつとめる「あそか病院」の白石廣照さんだ。

 

北砂ホームの対応は早かった。提携する医療法人の協力を得て、4月27日には、残り入居者と職員にPCR検査を実施する。入居者81人中21人、職員18人中6人が陽性という結果。クラスターが発生したことが判明する。

 

「しかし、保健所に相談しても、『受け入れ先の病院がない』という回答でした。感染症指定病院ではないうちの病院で、症状が重い患者を受け入れるしかありませんでした」

 

職員から感染者が出た北砂ホームは、介護崩壊の危機に陥った。

 

「陰性だった職員も、念のために2週間の出勤停止にする必要がある。入居者をケアするスタッフがいなくなってしまったんです」

 

3フロアに117床ある北砂ホーム。2階には経過観察が必要な症状の軽いPCR陽性者に入居してもらい、3階を休棟にして、陰性者は4階に入居することになった。同じグループに所属する他施設から職員を派遣してもらったが……。

 

「それでも、人員はギリギリ。一時は、日中は約30人の入居者を3人の介護士で、夜はたった1人でケアしないといけませんでした。それも、防護服とマスク、ゴーグル着用の完全防備姿で。まるでサウナスーツを着て介護するような過酷な状況だったんです」

 

経過観察中の入居者の呼吸状態が、悪化するケースもあった。

 

「多いときで1日3人。ホームから系列の病院に救急搬送するのですが、消防署から『よほど重篤でない限り、救急車を使わないでくれ』と。感染者を一般搬送したら、消毒に6〜7時間かかるので、その間、使えなくなるからという理由でした」

 

北砂ホームの感染者は、5月14日時点で合計51人(特養40人、ショートステイ4人、職員7人)。ほとんどが初期に出た患者で、感染拡大は最小限に抑えられた。

 

「母体グループが大きかったのは助かった」と白石さんは振り返る。北砂ホームとあそか病院が所属するのは伯鳳会グループ。傘下には多数の病院や医療施設がある。

 

「規模が小さい多くの施設では、介護崩壊が起きていたはず。それを表に出せず、新型肺炎で亡くなっても、死因を老衰ということにして、内々に処理している可能性を懸念しています。実際に風評被害がありますからね。北砂ホームでも職員のお子さんが保育園の利用を断られたり、近隣住民からのクレーム電話もあったりしました」

 

感染者を出した施設の実態をある介護関係者はこう語る。

 

「感染が起きれば嫌がらせの電話がかかってきたり、感染を恐れた職員がボイコットをするケースも聞きました。風評被害は数年単位で続く可能性があるので、地域で最初のクラスター発生場所にだけはなりたくないと、皆さん考えています」

 

今回のコロナ禍によって、難しい選択を迫られた介護施設もある。

 

「4月上旬、うちの施設への入居が決まっていた方が、新型コロナの疑いでPCR検査を受けていたことがわかりました。受け入れていいのかどうか、相当悩みました」

 

そう語るのは、有料老人ホーム「ホームピア」(東京都)代表の佐藤明子さんだ。

 

「入居者は18人。がん闘病中や、人工透析が必要な方が多いので、クラスターが発生したら多くの死者が出るかもしれない。風評被害で入居者もスタッフも集まらなくなったら、どうしたらいいのか」

 

検査結果は陰性だったが、偽陰性の不安はぬぐいきれない。

 

「でも、行き場のない入居者さんを拒否することはできません。ビニール袋を何袋も買ってきて、お手製の防護服を何十着も作り、その方の対応にあたりました。薄氷を踏む思い。恐怖で眠れない日がありましたが、幸いにも現在のところ感染者は出ていません」

 

高齢者は抵抗力が弱いために、新型コロナウイルスで重症化するリスクが高い。そんな高齢者が集団で生活する介護施設でクラスターが起きると、甚大な被害につながる恐れがある。

 

WHOによると、新型コロナウイルスによる欧州の死者の半数近くが介護施設の入居者だという。米国では、5月21日時点で、介護施設での死者数は約3万5,000人で、米国全体の死者数のおよそ4割を占めている。

 

「女性自身」2020年6月16日号 掲載

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