スーパーに並ぶ75ビールやザ・ドラフトなどオリオンビールの製品=サンエー那覇メインプレイス 画像を見る

 

日米の投資ファンドに買収されたオリオンビール(豊見城市)は、外資系企業で手腕を発揮してきた早瀬京鋳氏が代表取締役社長兼CEOに就任して1年が経過した。今年3月に2020~22年度の中期経営計画を発表し、次々に新商品を発売しているほか、社会的に問題となっているストロング系酎ハイの生産を終了したり、新型コロナウイルスの影響を受ける飲食店を支援するプロジェクトを立ち上げたりするなど、経営判断のスピード感を強く打ち出している。新体制1年目を振り返る。

 

2019年夏から秋にかけて、オリオンビール社内は騒然としていた。就任したばかりの早瀬社長が決めたのは、名護市限定で販売したプレミアムクラフトビール「75ビール」の全県発売だった。

 

「発売は一日でも早く」「県内で一番高い価格で」。外資系企業でマーケティングやブランド戦略を手掛けてきた早瀬社長が出した条件は、これまでのオリオンビール社内の常識を覆すものだった。通常だと新商品を発売するのは春か秋。加えて量販店に置いてもらう商談は半年前から始めるため、社員は「3月発売」を主張した。

 

事前のマーケティングで、県民がオリオンビールに求めているのは「プレミアムビール」と「クラフトビール」だと明らかになっていた。早瀬社長は3月発売の主張に対し、「本当にそうなのか」と根拠を問い、突き返し続けた。

 

■社内の反発

 

最も抵抗が強かったのが他社のプレミアムビールよりも50円ほど高い価格だ。「客は価格に厳しい」と反対意見が続出した。これにも早瀬社長は「いいビールだと自信を持っているのに安く売っていいのか」「高級車には高級車のセールスの仕方がある」と押し通した。

 

営業現場は、マーケティングや製品開発の部署と意見交換を深めていき、全県展開の方法を議論し始めた。早瀬社長は「『安いので買ってください』は一番楽。一番大変なことをやってもらおうと思った」と狙いを説明する。

 

こうして19年12月10日、75ビールは全県発売された。

 

最高マーケティング責任者(CMO)の吹田龍平太専務は、以前のオリオンビールの雰囲気を「新たな市場をつくるより、今までやってきたことを変えようとしない守りの姿勢が強かった」と指摘する。市場が出来上がってから大手をまねた商品を出していたため、「大手の型落ち品に見られていた」と分析し、「新たな市場をつくる戦略的な商品が必要だった」と話す。

 

■変わる意識

 

「かなり強引に進めた」と自ら認める75ビールの全県発売のプロセスは、早瀬流の組織改革の第一歩でもあった。

 

「新しいことをしなければと頭で分かっていても、どう動いていいのか分からない。そんな時にはタブーと言われたことをやる。そうすると結果が出る」。その言葉通り、社員にあえてハードルの高い要求をすることで、自分たちが曖昧にしていたことや本来やるべきだったことをはっきりさせた。

 

早瀬社長は「社内が変わった。その流れで高アルコールをやめることもすんなりいった」と語り、さらなる改革の手を打っていく。
(玉城江梨子)

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