9月17日、厚生労働省は新型コロナウイルスワクチンの3回目の追加(ブースター)接種を容認。2回目の接種から「8カ月以上」の間隔をあけることを軸に検討し、早ければ12月中にも医療従事者からブースター接種が始まる。一方、高齢者を含む一般の人の接種は年明け以降になる見込みだという。
気がかりなのは、新型コロナウイルスに対する血中の抗体の量(抗体価)が、思いのほか、早く減ることだ。
藤田医科大学で教職員209人を対象に行われた調査では、ファイザー社製ワクチンの2回目接種から3カ月後には、ピークの量の4分の1にまで抗体価が減少したことが明らかになっている。また、高齢者はそもそも抗体価が上がりにくいこともわかった。
ウイルス学が専門の埼玉医科大学の松井政則准教授は、ワクチンの仕組みをこう解説する。
「日本で使われているワクチンでは、1回目の接種でリンパ球のB細胞の一部が、ウイルスの情報を記憶したメモリーB細胞になります。わかりやすくいえば抗体を生産する工場が作られたようなもの。2回目の接種で、燃料が投入されるように工場が稼働して、新型コロナウイルスに対する抗体を増産。抗体価が上がって感染を防ぐことができるのです」
ところが、時間の経過とともに体内の抗体の量は減少してしまう。
「抗体価が一定以下になると、ワクチンを2回接種しているにもかかわらず感染する、ブレイクスルー感染の可能性が高くなります。とはいえ、メモリーB細胞は、いつでも抗体を作る準備ができている状態。抗体価が減少していてもブースター接種すれば、メモリーB細胞が再活性して、抗体を作り出し、ふたたび感染しにくい状態になるのです」(松井准教授)
感染を抑制する効果と比べて、重症化を防ぐ効果は急激に落ちることはないという。
「ワクチンの接種によって、メモリーB細胞は抗体を作る準備ができていますから、仮にコロナに感染してもすぐに抗体を生産できるので、重症化のリスクは低くなります。また、ワクチンによって得られる抗体は、現在確認されている変異株に対しても幅広く対応できており、十分効果があることが明らかになっています。この新型コロナウイルスの情報を記憶したメモリーB細胞は、少なくとも年単位、あるいは数十年単位で体内にとどまるとみられています」(松井准教授)
若くて健康な人であれば、ブースター接種が遅れても、それほど心配する必要はないかもしれない。
しかし、高齢者や基礎疾患のある人は、やはり重症化リスクが高くなる。また、ワクチンの接種対象になっていない子どもや、高齢の親などが身近にいる人は、自分が感染源となってしまう可能性があるので、注意が必要だ。
免疫学に30年以上携わってきた日本免疫学会評議員で、順天堂大学医学部講師の玉谷卓也先生がこう語る。
「高齢者は免疫機能が低下してきていることもあり、抗体ができにくかったり、減弱するのも早かったりします。基礎疾患がある人なども含めて、重症化を予防するためにも早めにブースター接種をするほうがいいと考えています」
若くて健康な人も、こうした人を守るためにも、3回目の接種が求められるかもしれない。しかし一方で、人によっては激しい副反応の伴うブースター接種をいつまでも続けるのかという問題も出てくる。
「4カ月ごとにブースター接種をしなければ、感染を予防するほどの抗体価を維持することは難しいでしょう。いつまで感染を防ぐ目的での接種を続けるのか、社会的合意が必要になってきます。またブースター接種を過信して、感染対策を怠っては意味がない。マスクと換気、空気浄化の感染対策をしっかりするほうが、ブースター接種よりも感染の予防効果があるかもしれません」(玉谷先生)