「玄奘(げんじょう)三蔵(三蔵法師)が経典を求めたインドへの旅を取材したときのこと。大物俳優と一緒に撮影に行ったんですが、最初はキルギスと中国の国境にあるベデル峠を撮影に向かったときのことです」
そう話し始めたのは、これまで世界50カ国以上に渡航し、世界中で20年にわたって取材してきた映像ディレクター・越智龍太さんだ。
「ここはソ連の革命の際にロシアから逃げる人たちが大量に虐殺されたといういわくつきの場所で、ここに大量の亡霊が出るという。しかも場所が国境のため緊張地域で、標高も4千メートルという難所でした。我々は亡霊の話など忘れており、1日だけ出た撮影許可をもとに峠に向かいました。
そこでスタッフが峠を撮ろうとカメラを向けると、画面越しからは人影が大量に見えるではありませんか! 恐ろしさにその場を急いで切り上げホテルに戻って映像をチェックしましたが、何も映っていなかったのです……」
キルギスで経験した不思議体験はこれだけではなかった。
「次に玄奘三蔵の歩んだ道をたどるべく、今度はキルギスの西にあるイシク・クル湖に来ました。この湖の底には玄奘も訪れたという仏教施設があるというのです。しかし、現地の人によるとここには昔から巨大な龍がいるという伝説があるというのです。玄奘の書いた『大唐西域記』にもイシク・クル湖には龍が棲んでいるという記述もあります。
それでも俳優を水中に潜らせて撮影を進めると、途中で後ろからバッシャーン! とものすごい水しぶきが上がりました。慌てて後ろを振り返りましたが、何も姿は見えず……。地元の人は“撮影を止めろ!”とずっと言っていたのですが、やっと伝説のその意味が分かりました。ちなみに、かつて地元の新聞には観光に来ていた白人が巨龍に食べられたと書かれたこともあったとか……。それほど神秘的で恐ろしい湖でした」
越智さんが世界中で経験した不思議体験を漫画化してまとめた『映像ディレクター越智は見た(1)世界怪奇録』(朝日新聞出版)が、1月20日に発売された。このエピソードは、中央アジア『ベデル峠の亡霊』と『イシク・クル湖の巨龍伝説』として収録されている。別の意味で“怖かった”のが、食べもののエピソードだ。
「南米ボリビアでアンデス山脈に、地元の人を治療して報酬を取らない“赤ひげ”みたいなカヤワヤという医者を取材したときのこと。ジャングルの中を2週間くらい歩いて標高5千メートルくらいの山に向かったんですが、当然ホテルもない。そこで患者の家に泊めてもらったんですが、寝所にした小屋にたくさんのネズミが…!。食事は何が出てくるのかと思いきや、そこにいた天竺鼠(モルモット)でした。それをじゃがいもと炒めたものが最高のごちそうだったんです。現地の人も“お前が寝ていたところにいたやつだよ”なんて笑う。美味かったですけどね。あのときは2週間で10キロ痩せました」
これを読んであなたも怪奇の旅に出てみてはーー。