《日本の酪農家の85%が赤字経営 その内、4割以上が月額「100万円以上」の赤字に》
3月17日、中央酪農会議が公表した実態調査の結果は、衝撃的なものだった。
食料安全保障推進財団の理事長で、東京大学大学院教授の鈴木宣弘さんが警鐘を鳴らす。
「現在、1kgの生乳を搾るのに30円の赤字が出ていますから、当然の結果です。少し前、千葉県の獣医師が全国107カ所の酪農家に呼びかけて行った調査では、98%が赤字経営していると答えています。酪農産業が消滅危機にあると言っても過言ではありません」
酪農現場では何が起こっているのか。酪農家で、酪農を学びたい人に情報を発信しているユーチューバーの浅野達彦さんが語る。浅野さんは、東京ドーム12個分、搾乳牛60頭、育成牛50頭ほどの規模を持つ牧場の後継者だ。
「もっとも経営を圧迫しているのは、コロナ前から比べると4割、5割値上がりした輸入している餌代、2割、3割値上がりした牧草の肥料や農薬費用です。これらの年間の購入費用は1500万円でしたが、いまは2500万円。1000万円も増えているんです。さらにエネルギー価格の高騰によって、光熱費は月20万円から25万円に。大打撃です」
少しでも赤字を埋めるために、肉牛となるオスの子牛を肥育農家に販売したいところだが、価格が大暴落しているのだという。
「和牛などはインバウンド向けに人気でしたが、コロナの影響で需要が減ってしまったのでしょう」(浅野さん)
そのうえ牛を育てるための餌代が高騰しているので、肥育農家も買うのをためらっているのだ。
「コロナ禍の1〜2年前にはホルスタインのオスが1頭5万〜10万円で売れましたが、昨年末は5000円、ときには1000円などで、ほとんど値がつかない状態でした」(浅野さん)
■自民党の判断がさらなるひっ迫を生む
ある酪農関係者も、不安が尽きない様子で語る。
「毎月、出荷した牛乳代金が振り込まれるのですが、そこから餌代を差し引かれます。するとほとんどお金が残らない。どうやって生活するのかと心配になります」
餌代や光熱費の高騰は、ロシアによるウクライナ侵攻、円安、コロナ禍など、さまざまな想定外の要因によるもの。だが、問題の要因はこればかりではない。じつは自民党の“迷走ぶり”が、今、酪農家を苦しめている実情もあるのだ。
事の発端は、多くの人の記憶に残っている、’14年に起きたバター不足問題。これを契機に、生産者たちの意見も汲み国は酪農家に増産を促したという。
「畜産クラスター事業といって、牛舎を作ってくださいと、設備投資にかかる費用の半分を国が補助してくれました。多くの酪農家が事業を拡大して、ようやく牛が育って増産体制が整ったところで、コロナによって学校給食や外食産業がダメージを受け、牛乳の需要が減ってしまったんです」(酪農関係者)
今度は供給過多となったために、政府は生産量を抑制する方向に舵を切った。牛を1頭食肉用に処分するごとに、国から15万円、生産者団体などから5万円、合計20万円が助成される仕組みになったのだ。