インバウンド効果で全国各地が賑わっているが、こんなやっかいな“訪日者”も。
2022年、福岡県内で次々と確認された特定外来生物「ツマアカスズメバチ」。これから活動が活発になる時期を迎え、関係者は気が休まらない。
ツマアカスズメバチの調査を続ける九州大学大学院の上野高敏准教授(昆虫学)もそのひとり。「今年、あなたの町に、ツマアカスズメバチが巣を作ることも十分考えられるのです」と警鐘を鳴らす。(以下、「」内は上野准教授)
■現状はツマアカスズメバチが定着する“一歩手前”
「去年、福岡市と久山町で女王バチが続けて確認され、夏になると巣も見つかり多数の働きバチも見られるように。ツマアカスズメバチが定着する“一歩手前”まで踏み込まれてしまった感じです」
4〜5月に生息調査したところ、新たなツマアカスズメバチは確認されなかったが……。
「巣の特定と駆除により、福岡に侵入したツマアカスズメバチがすべて滅び、定着に完全に失敗した可能性もあります。しかし定着の初期段階では個体数が少ないため、見つけきれずに生き残っていることも十分考えられます。春の調査では判断できません」
ツマアカスズメバチは、体長2cm(女王バチは3cm程度)と、オオスズメバチよりも小型で、黒っぽく腹部の先端が赤褐色の斑紋が特徴。東南アジア各国から中国南部や台湾など広域に分布している。
性格は従来のスズメバチ同様に、攻撃的で獰猛。巣を刺激した場合、執拗においかけてきて、台湾、マレーシア、インドネシアでは死者が出ているとか。
そんな危険なハチがなぜ日本に侵入しているのだろうか?
「グローバル化により海外と人や物が行き来するなかで、いろんなものに紛れて国内に侵入する確率が上がっています。さらに温暖化が進むことで、本来、温かいところを好むツマアカスズメバチにとって、日本も快適な環境になっていることから、定着するリスクが上昇しているのです」
■従来のスズメバチと違い高層マンションや電柱に巣を作ることも
ツマアカスズメバチの日本来襲にはどんな危険があるのだろうか?
「スズメバチは危険生物です。日本に土着しているスズメバチに、毎年20人前後が刺されて命を失っています。そんな獰猛なスズメバチが、国内で一種類増えるということ。
しかも、すでに定着した韓国では、都市部のマンションの壁に巣を作っていたケースが報告されています。つまり、従来の日本にいるスズメバチは山間部や近くに森がない限り、遭遇する機会はありませんが、ツマアカスズメバチは、町で暮らしている人たちの普段の生活にツマアカスズメバチが入り込んでくる可能性があるのです」
都市部に住んでいると、たしかにスズメバチを見かけることは少ないが、それが日常になる可能性も否定できないという。
実は、日本でもすでにツマアカスズメバチに刺される被害が出ている。
「すでに定着している長崎県の対馬では、草刈りや畑作業をしている際に刺された人もいます。ツマアカスズメバチは、高い木の上などに営巣しますが、それは十分に働きバチの数が増えてから。春から夏にかけては、土の中や木の根元、茂みの中に巣を作るのです。
7月後半からは、兵力(働きバチ)が増えるにしたがい開放的で高い所に巣を構えます。都市部なら、学校の校舎やマンションのベランダ、電柱に巣を作ることも考えられます」
もっとも、単独で獲物探ししているようなツマアカスズメバチは人を襲ったりはしません。そのようなときであれば心配はいりません。危険なのは、巣にうっかり近づきすぎたときです。巣を守るため命がけで刺しにかかります。夏までは茂みなどに注意が必要です。夏以降であれば、木の上にある巣は大丈夫でしょうが、巣と人との距離が近い場合、たとえばベランダなどに営巣したときなど、では巣を駆除しないととても危険です。