36人が死亡した京都アニメーション放火殺人事件の143日間にわたる裁判員裁判が京都地裁で続く。殺人や現住建造物等放火を含む五つの罪に問われた青葉真司被告(45)は起訴内容を認め、弁護側が主張する「妄想」の支配の程度が争点だ。青葉被告の主張から、同じく殺人事件として「戦後最悪」とうたわれたある事件との一致が浮かび上がる。
車いすで出廷し、顔面に生々しいやけど痕が残る青葉被告。公判の傍聴を続ける社会部記者によると、青葉被告が被告人質問で自ら語った犯行までの経緯はおおむねこうだ。
事件前の2016年に小説コンクール「京アニ大賞」に応募した作品が落選。インターネット掲示板を通じて創作の助言をもらったとする京アニの著名な女性監督に「(アイデアを)パクられた」と思い込んだ。そして、パクりをやめさせるには、もう事務所を「つぶすしかない」と、「やけくそ」で第1スタジオにガソリンをまき、着火――。
女性監督に「ラブ」な好意を寄せていたが、その反動は大きかった。10年にわたって書きためた小説の「アイデア帳」を燃やし、恨みを募らせていったという。
■与謝野大臣へのメールで「ナンバー2」が監視?
ここまででも虚実が入り交じる展開だが、さらにこの先の説明の飛躍が、真相解明を期待する遺族を失望させ、傍聴人をあきれさせた。犯行は「『ナンバー2』と呼ばれた闇の人物」に対し、「付け狙うのをやめてくれというメッセージ」だったと答えたからだ。
女性監督を含めた京アニに対する怨恨と、「ナンバー2」からの逃避。支離滅裂な主張はどう交わるのか。
いわく、「ナンバー2」が自身と女性監督を結婚させようとたくらみ、結婚によって「守り」に入らせ、自身の「発言力」を奪うよう企てたという。犯行は「ナンバー2」の陰謀に対する反逆というわけだ。
「ナンバー2」とは何者なのか。「ハリウッドやシリコンバレーに人脈があり、闇の世界に生きているフィクサーみたいな人」。2012年にコンビニ強盗を起こして服役していた刑務所で「一度だけチラッと見た」という。
「ナンバー2」につきまとわれていたのは、「日本を財政破綻させる世界的なシナリオ」に気付き、「国家破綻を回避」するための警告メールを与謝野馨・経済財政担当相(当時)に送信したためらしい。青葉被告は「こうした影響力を行使した人を放っておくわけにはいかないと思った」と持論を展開。京アニ大賞の応募作を落選させたのは「ナンバー2」だったと結論づけた。
弁護側は、事件当時の青葉被告がこうした「妄想」にとらわれ、刑事責任を問えない心神喪失の状態だったとして無罪を主張する。