内閣不信任決議案という野党の「切り札」を切るか否か。自民党派閥による裏金疑惑をめぐり、野党第1党の立憲民主党が土壇場でようやく腹を決めた。臨時国会会期末の13日午後、単独で提出した。ただ、世論や他党の挑発にあおられた末の決断で、迫力のなさは否めない。
5年間で5億円に上るとも報じられている「清和政策研究会」(安倍派)の裏金疑惑。渦中の政務三役は15人。松野官房長官、西村康稔経済産業相、鈴木淳司総務相、宮下一郎農林水産相に加え、副大臣5人、政務官6人だ。戦後最大級の贈収賄事件に発展したリクルート事件(1988年)にも例えられ、「大疑獄事件」の様相を呈してきた。
「これほどのチャンスはもう来ない」(政治学者)という政局を迎えてなお、立憲は内閣不信任案の提出を躊躇していた。党幹部が公然と慎重論を唱えるほどで、12日までに提出されたのは松野官房長官に対する不信任案にとどまる。本丸の内閣に対しては読売新聞が「12日提出」と報じたが、結局不発に終わった。国会閉会がいよいよ13日に迫り、決断は泉健太代表に一任された。午前の参院本会議の審議を見届け、提出した。
内閣不信任案を単独で提出できるのは、野党で衆院議員51人以上の賛同を得られる立憲に限られる。立憲はなぜ、その切り札を切れずにいたのか。一つが、東京地検特捜部の捜査が閉会後に本格化するとの期待からだ。不信任案の提出によって首相が衆院解散に踏み切った場合、立憲は「選挙妨害を理由に捜査に影響する」(幹部)と警戒していた。
もう一つは、野党分断の影響だ。半年前の通常国会会期末。立憲は否決を織り込み済みで内閣不信任案を単独で提出したが、維新と国民民主に反対に回られただけでなく、会期末の「盆踊り」「茶番」とまで冷やかされた始末だ。さらに岸田首相がちらつかせた解散権を下ろしたのを見届けてからの後出し的な提出に「弱腰」と失望もされた。今回も維新、国民民主が賛成するか直前まで読み切れず、「出すときは本気で出さないと」(安住淳国会対策委員長)と歯切れが悪いままだった。
内閣不信任案は、分立する立法府が行政府とせめぎ合うための特権だ。与党の反対多数で否決されるとしても、政権との対決姿勢を鮮明にし、野党第1党の存在感を高め、威信にもかかわる。提出理由を討論でき、世論の喚起にもつながる。
決断を一任された泉代表は「世論がどこまで本気で岸田政権を倒す思いを持っているか」(5日配信のラジオNIKKEIのポッドキャスト番組)と言ったが、違う。「世論」ではなく、それはあなたたちだろう。
(文:笹川賢一)