「今回の移転案は、政府関係者のほとんどが知らなかったようです。移転先の候補地は、東京都心のど真ん中、港区六本木にある米軍施設。ここは、昔から東京都が全面返還を求めている場所でもあることから、日本政府も容易に受け入れることはできないのではないでしょうか」(全国紙政治部記者)
11月12日に米軍の準機関紙「星条旗新聞」によって報じられたニュースが波紋を広げている。報道によると、在日米軍が現在「横田基地」(東京都福生市など)に構えている軍司令部を、六本木にある「赤坂プレスセンター」に移転する案を検討中であるというのだ。
来春、日本の自衛隊は防衛省のある市ヶ谷に「統合作戦司令部」を新設する。米軍も日米の指揮統制のさらなる連携強化に向け、作戦指揮権を持つ「統合軍司令部」を新設する方針だという。その重要拠点として挙げられたのが、六本木だ。内情を知る防衛省関係者は、「今回の移転案は、明らかにアメリカ主導です」と語る。
「米軍にとっては、防衛省のある市ヶ谷から30キロ以上離れている横田基地よりも、約3キロの距離にある六本木に司令部を置くほうが日米間の連携が密に取れる。つまり、移転案の背景にあるのは、立地の利便性の高さです」
たしかに「赤坂プレスセンター」にはヘリポートがあり、横田基地や厚木基地と都心部を結ぶ移動拠点として活用されている。これまでもアメリカの要人が来日する際にたびたび使用され、トランプ次期大統領も前回の来日時、ヘリで六本木に降り立っている。
だが、六本木が移動拠点だけでなく、在日米軍の心臓部ともいうべき司令部の機能をもつとなれば、要人や軍幹部の往来もかなり増えることになるだろう。国内にある米軍基地周辺では、米軍ヘリの墜落や不時着、部品の落下事故などが相次いで起きている。
「赤坂プレスセンターでも、米軍ヘリの飛行による騒音や安全性の問題が、たびたび指摘されています。在日米軍には日本の航空法が適用されませんので、六本木ヒルズやミッドタウンといった高層ビルの合間を低空飛行してもおとがめなし。過去には横田基地から六本木に向かった米軍ヘリのエンジンが不調となり、杉並区内の中学校のグラウンドに不時着したこともありました」
こう話すのは、防衛事情に精通する国会議員A氏。そして移転が実現した場合、最も懸念されていることは、六本木がテロのターゲットになってしまうことだ。
「敵国からのミサイル攻撃や、反米組織などのテロリストによる自爆テロの標的になる危険性が高まるでしょう。都心にある米軍の指揮系統をたたけば、それだけ大きなインパクトを与えることができますから」(前出・防衛省関係者)
また、東京の中心部という場所ならでの経済的デメリットも懸念されるという。
「テロ情報を入手した場合、司令部周辺の道路は封鎖され、交通規制が敷かれることに。そして住居や職場への立ち入りまで自由にできなくなる。そんなことが頻繁に起これば、住民生活やビジネスにも大きな影響を与えてしまう」(前出・国会議員A氏)
さらにテロ対策のために、新たに建てられるビルに対する規制や、どのような人物が基地周辺に住んでいるかなどのチェックが行われる可能性もあるという。
そして移転が正式に決まれば、軍人や軍属、その家族らが数百人規模で都心部に移住してくることになる。すると、移転費用として彼らの新たな住居整備などにかかる駐留費も必要となってくる。これらは日米地位協定に基づき、日本が負担することになっている。
「司令部を構えるとなると、セキュリティ対策の強化も必要となる。在日米軍はおそらく要塞のような強固な建物を作るでしょう。その施設整備費を負担するのはもちろん日本です」(前出・国会議員A氏)
’24年の在日米軍駐留費の日本側の負担額、いわゆる“思いやり予算”は、2千124億円。来年1月、トランプ次期大統領が就任すれば、任期中にさらなる増額を迫ってくることが想定される。実際、前回のトランプ政権時代には、日本側に在日米軍の撤退をちらつかせ、従来の4倍超にあたる年間80億ドル(当時のレートで約8千800億円)の負担を求めていたことが、当時の国家安全保障担当大統領補佐官だったボルトン氏の証言で暴露されている。
負担を強いられているのは、在日米軍駐留費だけではない。アメリカの同盟国の中で、これほど数多くの米軍施設を無償で提供しているのは日本だけなのだ。
そのすべての施設の中枢となる重要拠点が都心に置かれると、日本国民には新たなリスクや負担が強いられることに……。
石破茂首相は、10月の就任会見に際し、在日米軍の特権的な地位を認める“日米地位協定を改定する方針”を表明している。ただ“アメリカの言いなり”になることは避けてほしいものだが。