「相手役のフローレンス(芳賀)ちゃんは、オーディションで決まったのですが、ボクが紹介されたとき、ほとんど日本語をしゃべることができませんでした。正直“この子で大丈夫かな”って、不安になるほど」
こう振り返るのは宮川一朗太さん(58)。フローレンスは台本の余白に日本語のセリフをローマ字に書き換えて、必死で現場についていったという。
「日本語の会話を、どこで区切っていいのかわからず『今、度行、く』みたいな感じになってしまったり。2人のシーンでは、ボクの顔にカンペを貼ってセリフを言うこともありました。でも、フローレンスちゃんはすごく努力家で、しかも明るい子。ボクやスタッフに積極的に声をかけて日本語を吸収していったんです。ボクは“撮影が終わるころには、英語がしゃべれるようになるかも”と思っていたけど、彼女の日本語の習得が驚異的すぎて、ボクの英語は上達しませんでした」
今でも忘れられないのは、駅伝大会のシーンの撮影。朝からまる一日、郊外のグラウンドを貸し切り、大勢のスタッフや共演者、エキストラが集合した。
「ところが大遅刻してしまいまして……。集合時間にボクがおらず、助監督がかけてきた電話で起きたんです。現場に向かうまでは、生きた心地がしませんでした」
結局、撮影は夕暮れまでに間に合わず、照明器具を使用。
「ゴールのシーンが不自然に暗いのは、ボクのせいです」
大映テレビのスタジオは2つあって、一つは同時期に放送していた『スクール☆ウォーズ』(TBS系)が利用していた。
「お昼休みに近所のファミリーレストランに行くと、とんでもなくガラの悪い、不良の格好をした集団がいるんです。お客さんはびっくりしたと思いますよ」
スタジオの前には普通の一軒家があり、そこにいる犬がよく吠えることで有名だった。
「監督が『誰か止めてこい』って言っても、スタッフは『ダメでした』ってあきらめて戻ってくる。薄い壁と屋根なので、選挙カーが来たり、雨が降ったりしても、撮影が止まりました」
ドタバタの現場でもあったが、ドラマの反響は大きく、ロケバスが大勢の若いファンに囲まれてしまったこともあるほど。
「アイドル雑誌の好きなタレントランキングでは、不動の1位がチェッカーズでしたが、このボクがシブがき隊などほかのアイドルを抑えて2位になったんです! それも自信につながりました」
『青い瞳の聖ライフ』(フジテレビ系・1984~1985年)
「マラソンでライバルに勝ちたい!」という祐太郎(宮川一朗太)と、「ロックフェスを開催したい」ベス(フローレンス芳賀)の2人が、好きでもないのに国際結婚することで始まるラブコメ。舞台が鎌倉のせいか“大映ドラマ”と思えないほど爽やか!
【PROFILE】
みやかわ・いちろうた
1966年生まれ、東京都出身。17歳のときに映画『家族ゲーム』で主演デビュー。以後、柔和な善人からひとクセある悪人まで、数多くの映画、ドラマに出演。