新しい法制度に対応した働き方を考えよう(写真:ocsa/PIXTA) 画像を見る

「5月30日、衆議院で年金制度改革法案が可決されました。就職氷河期世代は給付水準が低い基礎年金のみに頼る非正規雇用者が多いため、救済措置として厚生年金の積立金を流用して基礎年金を底上げする案が目玉となっています。一方で、パート主婦の働き方に大きな影響がある106万円の壁の撤廃も議論されます」(全国紙記者)

 

106万円の壁とは、夫の扶養からはずれ、あらたに健康保険や厚生年金など社会保険に加入することになる年収のラインだ。ファイナンシャルプランナーの内山貴博さんが解説する。

 

「現状は、従業員51人以上の企業に勤め、週20時間以上の勤務で、年収106万円(月収8万8000円)以上、学生ではない場合と大きく4つの条件があります。今回検討されているのが、年収要件を撤廃し、従業員51人以上の企業規模要件も段階的に緩和して、単に“週20時間以上の勤務”を社会保険加入の条件とすることです」

 

年収要件は公布から3年以内に撤廃するとされており、早ければ2026年10月からという見方もある。企業規模要件は2027年10月から段階的に緩和して、2035年10月に全廃することが明記されている。これによって、あらたに200万人が社会保険に加入することになると試算されている。

 

これまでも国は「将来受け取れる年金が増えるから」とパート主婦へ適用拡大してきた経緯があるが、社会保険に加入すると、健康保険料、厚生年金保険料によって手取りが減ってしまう。そのため年収106万円に達しないように、働き方を調整する人も多かった。

 

■年収106万円で約16万円手取りが減る

 

現状で、社会保険に加入する年収106万円と、社会保険未加入となる年収105万円のパート労働者の手取り額や将来に上乗せされる厚生年金にどのような差があるのか、試算してみた。

 

「まず、今年から税負担が発生する103万円の壁が撤廃され、年収200万円以下の税負担は大幅に軽減されているので、いずれの年収でも所得税はかかりません。そのため年収105万円の場合、ほぼ全額が手取りとなります。

 

一方、年収106万円になると、年間の厚生年金保険料が9万6624円、健康保険料が6万720円かかることになります。手取りは90万2656円と、年収105万円の人よりも約15万円も少なくなってしまいます」(内山さん、以下同)

 

1万円年収が増えるだけで、大幅に手取りが減るため、細かい働き方を調整してきたわけだが、あらたに制度が変更されたら、週20時間以上働く年収105万円の人の手取りも大幅に減ることになる。

 

「社会保険料が発生するので、手取りは105万円から89万2656円と、約16万円も減ってしまうのです」

 

もちろん、手取りが減った分、将来、厚生年金が上乗せされることになるが……。

 

「年収105万円、106万円のいずれの場合も、1年働くごとに上乗せされる厚生年金は年間5788円ほどです。終身で受け取れるので長生きすれば払った保険料以上に返ってくるお金ですが、掛け捨てに近い健康保険料に関しては、純粋な負担増となります」

 

以上のような制度変更が行われた場合、これまでのように年収を調整する意味がなくなってしまう。

 

「新制度では年収106万円の壁を超えても、週の勤務時間が20時間以上に達しなければ、社会保険に加入する義務はなくなるとみられています。そのため年収よりも、働く時間で調整する人が増えるでしょう。新たに“週20時間の壁”ができるというイメージです」

 

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