仮設住宅では孤独に悩み、健康を害する場合も(写真:共同通信) 画像を見る

「地震と豪雨災害からの復興もままならないうえ、医療費の窓口負担の減免まで打ち切られてしまったら、今後、受診控えで命を落とす人が続出しかねません」

 

そう懸念を示すのは、県内の開業医や勤務医が加盟する石川県保険医協会、事務局の長浦久実さん。

 

昨年1月に発生した能登半島地震のあと、自宅が半壊以上の被害を受けた被災者には、医療費の窓口負担や介護サービスの利用料が免除される特例措置が取られていた。

 

ところが、石川県の国民健康保険加入者および、後期高齢者医療保険加入者の免除が、今年6月末で突如、打ち切りに。

 

一方で、石川県内でも協会けんぽや、同じく被災した富山県や福井県では、いまも免除が続いている。

 

「もともと国は、9月末まで財政支援を継続すると決めています。しかし、免除をいつまで続けるかは、加入している保険組合が決定することになっているので、市区町村が一部負担しなければならない国保や後期高齢者医療保険の場合、財政がひっ迫している自治体は、継続が困難だとして打ち切りを決めたようです」(全国紙記者)

 

震災の被害が大きかった奥能登(珠洲市・輪島市・能登町・穴水町)は高齢化率が高いため、今回、打ち切りの対象になった人が多いという。

 

つまり、もっとも弱い人々にしわ寄せが及んでいるというわけだ。

 

実際に、石川県保険医協会が、今年5月から8月に実施した患者アンケートでも、窮状が示された。

 

「免除打ち切りによって〈通院に影響がある〉と答えた方は、全体の85.4%に。治療を受けるためには、〈生活費を切り詰めて医療費に〉が63.6%(2千542件)、〈受診回数を減らす〉が43.9%(1千754件)、〈受診せず我慢〉が27.8%(1千112件)と続いています。〈がんの治療をあきらめる〉といった声もあり、受診控えが増えることで災害関連死の増加が危惧されます」(前出・長浦さん)

 

報道によると、石川県内の震災関連死は今年7月時点で、すでに377人にのぼっている。

 

アンケートの自由記載欄にも、〈家もなくなり、仕事もなくなり、生活が苦しい。国は能登を見放したのですね〉と、悲痛な声が並ぶ。

 

さらに本誌取材班が被災者や地元医療機関へ取材を重ねると、「震災・持病の悪化・物価高騰」に苦しむ人々の姿が浮き彫りになった。

 

「震災後、夫が心筋梗塞を起こして手術しました。そのときは医療費の免除があったので、とても助かりました。でも6月末に打ち切られてからは、通院費などの負担で非常に苦しい」

 

そう明かすのは、輪島市内の自宅が全壊し、現在は夫と2人金沢市内の避難者用の住宅に身を寄せている中田悦子さん(仮名・73)。

 

夫は現在も、心臓の治療で毎月通院が必要だ。中田さん自身も、高血圧に加えて、緑内障の持病やケガの治療もあるため、月の医療費の自己負担分は夫婦合わせて1万円ほどになるという。

 

「現在、家賃負担は免除されていますが、物価高騰の影響で食費や光熱費、ガソリン代などが膨らんでいます。夫婦2人で月14万円の年金生活者にとって、ここに医療費が加わると、生活は立ち行かなくなります」(中田さん)

 

住宅再建の道筋も見えないなか、毎月の医療費が重くのしかかる。

 

「8月に病院を受診したら、医療費の免除が終わっていて驚きました」

 

と、話すのは、石川県珠洲市の仮設住宅に妻と2人で暮らす砂山信一さん(76)。糖尿病や高血圧、睡眠時無呼吸症候群などの持病があるため、医療費も高額になりがちだ。2カ月に一度の受診では、8千円ほどの医療費がかかる。

 

砂山さんは、昨年1月に発生した能登半島地震で珠洲市内の自宅が全壊。3カ月ほど体育館で避難生活を送ったのち、昨年4月から地元の仮設住宅に入居。「一時期は、うつ状態になっていた」が、「2カ月ほど前から、ようやく気力が回復してきた」と語る。

 

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