「芸能界デビューが決まって上京したころ、勉強のために事務所の先輩の仕事現場を見学していました。もっとも印象に残っているのが『夜のヒットスタジオ』(フジテレビ系)です。テレビで見ていた大スターのナマ歌を聴けて感動するなか、圧巻だったのが少年隊のパフォーマンス。まだそのときは、東山(紀之)さんと共演できる日が来るなんて、思いもしませんでした」
こう振り返るのは、千堂あきほさん(56)。夢がかなった作品が『ザ・シェフ』だ。
「トップアイドルの東山さんを筆頭に、脇はベテラン勢がしっかり固めていて、毎回大物のゲストを招いていました。正直、“私なんかが入って大丈夫?”と、不安もあったんです」
緊張の初顔合わせでは「あ、どうも。東山です」とクールでスマートな対応だった。
「すごく丁寧でしたが、打ち解けられるのか心配で……。でも、撮影が始まると、日に日に私が抱いていた東山さん像が崩れていきました。もちろん、いい意味で(笑)」
撮影現場を盛り上げるため、スタッフとも密にコミュニケーションをとっていたという。
「いつも冗談を言ったり、スタッフにドッキリを仕掛けたりしていました。料理用の金物のボウルにアイスピックを刺して、別の料理器具として代用するシーンがあったのですが、ボウルに穴を開ける瞬間にすごく嫌な音がするんです。東山さんはそれを面白がって、カットがかかった後も、音を鳴らし続けていました」
忘れられないのは、車中で料理をするシーンだ。
「止まっている車を、外からスタッフが揺らしてくれたんです。私は細かい料理のウンチクを語るのですが、セリフの量が多いうえ、車が揺れているから、カミカミになってしまって、何度もNGを……。寡黙な役で、ほとんどセリフがない東山さんから、だいぶイジられました(笑)」
ベテラン俳優とのシーンも貴重な体験だった。
「赤木春恵さんは、短いシーンではあったのですが、ナチュラルな演技に引き込まれました。川島なお美さんはゴージャスで嫌な役だったので、身構えていたのですが、ふだんはかわいらしい人で。撮影の合間、差し入れのお菓子を見て『これ、食べたいけど、太っちゃうからやめようかな』って本気で悩んでいる姿は、少女のよう。魅力的な出演者に囲まれた、幸せな現場でした」
『ザ・シェフ』(日本テレビ系、1995年)
高額な報酬で料理を請け負うさすらいの天才料理人・味沢匠(東山紀之)が、さまざまな難題を料理で解決。調理法も破天荒なものが多く、料理界のSFドラマを自称するほど。とても29歳とは思えないクールさの東山が光っていた!
【PROFILE】
せんどう・あきほ
1969年生まれ、兵庫県出身。1987年のCMオーディションをきっかけに芸能界入り。1990年に歌手デビューすると、学園祭の女王と呼ばれ人気を博す。以後、ドラマ、映画と幅広く活躍する。
画像ページ >【写真あり】若いときからクールでスマートなイメージの東山紀之(他1枚)
