8月18日、米トランプ政権は、国際刑事裁判所(ICC)で日本人として初の所長を務める赤根智子氏(70)らを制裁対象に指定した。
オランダ・ハーグに本部を置くICCは、「ジェノサイド(集団殺害)」や「人道に対する罪」「戦争犯罪」などの重大犯罪を犯した個人の刑事責任を問う国際機関で、現在は125の国と地域が加盟している。日本は’07年に加盟しており、赤根氏は’24年3月に日本人として初めて所長に就任した。
トランプ政権はこれまでもICCを敵視し、判事などを相次いで制裁対象としてきた。ICCがガザ地区での戦闘をめぐりイスラエルのネタニヤフ首相らに逮捕状を出したことや、アフガニスタンにおける米軍関係者の戦争犯罪疑惑を捜査したことなどに反発している形だ。
ルビオ国務長官は制裁にともない発表した声明でICCについて「腐敗し、悪意を持って権限を乱用している」などと批判。今回、赤根氏とICC上級法廷弁護士であるセネガル出身のアブドゥライェ・セエ氏を制裁対象に指定した。
今回の制裁により、赤根氏は米国内の資産を凍結され、米国の金融システムを利用した取引などが制限されるためクレジットカードの利用が難しくなるほか、米国への入国も制限される。米国務省は「日本政府に向けたものではない」としつつ、日本を含む同盟国に対し、「ICCへの支援を打ち切ることを期待する」としている。
これに対しICCは19日、「いかなる圧力にも屈しない」とする声明を発表。「任務を遂行する司法関係者が脅かされれば、国際法秩序そのものが危険にさらされる」として、米国の制裁に強く反発した。
また、ICCの所在地であるオランダのベーレンドセン外相は18日、米国の制裁について「認めない」と表明。欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長も19日、「ICCと赤根氏、使命を支える職員を断固支持する」と表明した。フランスやスペイン、国連なども同日、相次いでICCへの連帯や制裁への懸念や非難の意を示している。
一方、日本では外務省が19日に今回の米国の措置について「大変残念だ(very unfortunate)」とする報道官談話を発表。「日本は国際社会における最も重大な犯罪の処罰と撲滅、法の支配の徹底のため、ICCを一貫して支持している」と表明した。
その後、高市早苗首相(65)も同日、会見で「ICCの赤根所長の件につきましては、先ほど外務省から談話を発表したところでございますが、大変残念に思っております」と発言。「これからもですね、米国を含む関係国と意思疎通を継続しながら対応して参ります」と述べた。
しかし、この高市氏の発言に対してX上では、批判的な反応が相次いで寄せられている。
《こういう時に世界が求める適切な対応を取らないのに、「世界の真ん中で咲き誇る日本外交を取り戻す」なんてよく言えたと思う》
《赤根さんは、何も問題起こしていませんよね、、。アメリカ大統領に抗議すら出来ない総理って何なんですかね》
《国内には強引な政策を押し進め対米国には弱腰・抱きつき外交しかないのか?明らかに世界が日本を軽視する傾向にある!ここまで極端な総理大臣は初めてだ》
《国連やEU、フランスが毅然と抗議する中、日本政府は「大変残念」の一言。あまりにも情けない弱腰外交。米国に異を唱えるべき場面でも、結局は顔色をうかがうだけ。法の支配やICCの独立性が脅かされても何も言えない。これが日本の外交なのかと、国民として情けなくなります》
というのも、今年1月7日、赤根氏と国際司法裁判所(ICJ)の岩澤雄司所長による表敬訪問を受けた際、高市氏はXにこう投稿していた。
《国際社会における法の支配は、平和と繁栄の基礎をなすものです。
ICJは国際社会で最も権威ある司法機関として、ICCは重大な犯罪行為の撲滅と予防のための国際刑事法廷として、それぞれ、法の支配の要を担っています。
その役割がますます重要になる中、両裁判所のトップを日本人である岩澤所長及び赤根所長が務めていることを誇らしく思います。 私から両所長に、国際社会における法の支配の維持・強化に向けてこれからも日本は両裁判所をしっかり支援していくので、頑張ってほしいと心からのメッセージをお伝えしました》
それだけに、米国から日本人の赤根氏が制裁を受けた今回、「大変残念」との発言にとどまった高市首相の対応を疑問視する声が広がっている形だ。
超党派の「人権外交を超党派で考える議員連盟」の共同代表を務める自民党の中谷元・前防衛相(68)は19日、「日本が送り出した裁判官がその覚悟で職務にあたる時に政府の取るべき態度は明らかでありまして、日米同盟の堅持と法の支配の擁護、これは二者択一ではありません」と緊急声明を発表。高市首相の名前で米国に抗議し、制裁の即時撤回を求めるよう日本政府に要請した。
議連は、赤根氏の職務遂行を支援することなども政府に求めており、24日に声明をまとめて政府に申し入れる方針だという。
さらに海外からも、日本政府の対応を”弱腰”と見る声が上がっている。Xでは、国際刑事法を専門とする大学教員や元国連関係者、著名な起業家などが外務省の英文談話を引用し、日本政府の反応に驚きを示している(翻訳は全てXのオリジナルのまま)。
《もし翻訳が正しければ、これは日本が自国民であり国際刑事裁判所の所長に対する制裁に対して示した反応としては、かなり弱い》
《「遺憾だ」?裁判所の最大の財政的支援者であり、歴史的な支持者である国が、こうした非難の言葉しか発しないとは…》
《国家の尊厳と主権は、もはや日本にとって大した意味を持たない》
《非常に不幸なことだ!(※原文:VERY unfortunate!)親愛なる日本よ、これはあなたの審判だ。あなたが彼女のために立ち上がらなければ、誰が立ち上がるのか?》
「法の支配」を掲げ、赤根氏への支援を明言していた高市氏。世界からも注目されるなか、今後の外交姿勢が問われそうだ。
画像ページ >【写真あり】制裁対象となった赤根所長(他1枚)
