統計以来、過去最悪を更新した2025年度の熊被害。全国で238人が被害に遭い、うち死亡者は13人となった。特に10月の被害は突出して多く、被害者が89人、死亡者は7人だった。
「襲ってくる熊は顔の毛が逆立っています。それは怒って威嚇し、襲ってくる可能性が高いシグナルなので厳重に警戒してください。その場から走って逃げるのは禁物です。弱気を見せると襲ってくるため、必ず相手の目を見つめながら、じりじりと後ずさりしたり、木の影などに姿を隠すのが鉄則です。熊は相手がいなくなったと思ってどこかに行くこともあるので、その瞬間に逃げてください」
そう語るのは、『ヒグマ110番「警察です。事件ですか?事故ですか?」』(つり人社)の著者で人喰い熊評論家の中山茂大さんだ。明治から昭和に至る熊に関わる新聞記事や文献を精読してきた中山さんに、過去の被害史から導き出した「実践的な生き残り策」を解説してもらった。
秋は熊が冬眠に備えてエサを大量に食べる「飽食期(ほうしょくき)」にあたるため、9月?11月にかけて熊の出没や人身被害が急増すると中山さんは警鐘を鳴らす。
また遭遇事例の内訳を3つに大別して見ると、熊のテリトリーである山に入ったハンターが全体の大半を占める。次いで、人間と熊の境界エリアである里山や山菜採り中の遭遇が残りの大半を占め、住宅街で新聞配達中やお祭りの帰りに襲われたといった、人間の生活圏内で起きた事例はごくわずかにすぎない。
■「黒い傘」で危機を脱出した事例も
実際に危機を回避した事例として印象的なのが「黒い傘」を使ったケースだ。
「黒い傘をパッと開くことで、熊から見ると目の前の相手が急激に巨大化したように映ります。その圧迫感に驚いて熊が逃げ出し、助かったという事例があります」(中山さん、以下同)
実は中山さん自身も2022年、奥多摩の自宅で熊と遭遇する緊迫した事態を経験している。
夜8時ごろ、自宅のウッドデッキからガタガタと大きな音がしたためドアを開けると、わずか5メートルほどの距離に熊がいて、BBQ用の鉄板をなめていたという。大声を上げれば逃げるだろうと考え「おい!コラ!」と威嚇したところ、熊は逃げるどころか興奮して鼻息を荒げ、顔の毛を逆立てて向かってきた。危険を感じた中山さんは咄嗟にドアを閉めて鍵をかけ、警察へ通報した。
「警察を待つ間、まだ外に気配がしたため窓を少し開けて『おい!コラ!』と再び声をかけると、またこちらへ向かってきたんです。すぐに窓とカーテンを閉め切ったところ、静かに去っていきました。こちらの姿と気配が消えたことで、熊も安心したのだと思います。木の影に隠れたり、傘で姿を遮ったりして『視界から消える』ことの重要性を実感した出来事でした」
熊と出くわした際、絶対に避けるべきなのが「ダッシュで逃げる」行為だ。背中を見せて走ると、本能的に追いかけてくる習性があるからだ。相手が自ら去っていくまでその場にとどまるか、目を逸らさずじりじりと後ずさりするのが基本となる。
また、去りつつある熊に対して大声で追い打ちをかけるような威嚇も厳禁だ。刺激された熊が逆上して戻り、襲いかかってきた事例もある。刺激せず、静かにやり過ごすのが鉄則だ。さらに、子熊を見かけた場合も即座に離れなければならない。近くにいる親熊が「子供が攻撃されている」と誤認し、猛烈な勢いで襲いかかってくるためだ。
では、身を守るために有効なアイテムには何があるのだろうか。
「猟師さんが推奨していたのが『おもちゃの火薬ピストル』です。山に入った際、30分に1回ほど鳴らすことで、音と火薬の匂いを警戒した熊が離れていきます。私自身も山に入る際は必ず携行しています」
このほか、自分の存在を熊に知らせる「笛」や、山でテントを張る際に周囲の熊を追い払う「爆竹」も有効な対策アイテムとなる。
