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連載第23回 アメリカ人は今、東京の何に興味を持っているのか?

東京都知事選直後、ユアサは「アメリカ人は今の東京の、何に、なぜ興味を持っているのか?」をアメリカの知人に聞いてまわりました。
しかし、全米のあちこちで聞いているうちに、彼らの関心はメディアを通じて、朝から晩までソチオリンピックということになっていました。
そこで、ユアサは東京のことは、メディアの中心地であり、同じ大都市に住むニューヨークの人たちに聞くのがいいと感じ、ニューヨーカーの知人に絞って、冒頭の疑問を投げかけてみました。

 

ところが、アメリカのメディアはソチオリンピック情報以外では、アメリカ国内か、ハリウッドや近くの町やお隣の州のニュースが大部分を占め、日本の情報は一般的に、そうそうメディアに登場しません。
ユアサの一口メモでいうと〝アメリカ人は何よりアメリカ国内の情報が好き〟なのです。
サービス精神旺盛なニューヨーカーでも、いきなり「東京の何に、なぜ興味を持っているの?」と聞かれても、仕事のように反射的に即答できる人は少ないのですが、うなりながらもユアサに回答を寄せてくれました。

 

多かったのは、次の2つです。
第一位、「コーヒー」。
第二位、「犯罪が少ないこと」。
もちろん、さまざまに理由も語ってくれました。

 

コーヒー豆消費量世界一のアメリカ社会のコーヒー好きには半端ないものがあります。
当地ニューヨークで、コーヒーの名店としてトップに位置するのが、「ブルーボトルコーヒー(Blue Bottle Coffee)」です。
その素敵なお店の多くは、西海岸とニューヨークに広がっています。なかでも、マンハッタンのお隣であるブルックリンのお店には、ユアサもアメリカ人美女たちとリモに乗り、イーストリバーを越えて訪ねることがしばしば。れんが作りの雰囲気のある伝統的建物の中で、さまざまなおいしいコーヒーを味わうとき、別世界のような洗練された心地よさを楽しめます。

 

「ブルーボトルコーヒー」の人気のコーヒーに、東京風で超長時間の手間をかけ、最高の丁寧さで生み出す、冷えた水出しコーヒーがあります。
オーナーのジェームズ・フリーマン(James Freeman)自らが、本格的水出しコーヒーを作るために必要なコーヒー・ドリッパーについて、東京の名門卸しメーカーであるオージ社の製品の素晴らしさを全米のメディアに誠意をもって伝え続けています。
常々その〝宣伝〟を耳にしているニューヨーカーは、日本人以上に東京のオージ社のコーヒー・ドリッパーの名声を知っています。

 

ただし、西海岸のブルーボトルのお店でかつてオ-ジ社のドリッパーを用いたコーヒーに〝きょうと〟のニックネームが付いた関係で、それ以来アメリカのメディアには、「お店で呼ばれる名は『きょうと』でも『東京のオ-ジ』という名門コーヒー・ドリッパーの器具が用いられている」という、やや長過ぎとも言われかねない丁寧な説明が付け加えられています。
しかし、こうした丁寧さをアメリカ人は全く苦にしないので、ニューヨークの友人たちの多くがオージ社は東京にある会社と正確に認識しており、それゆえに東京といえばコーヒーを思い浮かべ、理由はオージ社があるからと述べるのです。

 

アメリカが誇る名店で供される、東京の会社が作ったドリッパーが醸し出す味わい深いコーヒーが一位になった理由には、日本の技術力や全米的トレンディさという角度だけでなく、アメリカの家庭や職場に絶品の水出しコーヒーを東京がプレゼントしてくれたことへの熱い感謝があるように思われます。
アメリカ人が興味を持つということは〝ハートのこもった感謝と同じコインの表裏の関係にある〟と国際弁護士ユアサは断言します。

 

では、次に「犯罪が少ないこと」について述べます。
アメリカ人の友人たちにユアサが面と向かって東京のことを聞いていて、彼らの表情からハッと気が付いたことがあります。それは、アメリカ人の心の中にはまだ9.11同時多発テロ事件が鮮烈な記憶として今もとどまっているということです。

 

あの日、ユアサも飛行機に乗っていましたが、幸いにもテロには巻き込まれませんでした。
多くの友人を失ったニューヨーカーの一人として、ユアサもアメリカ人の思いを痛切に共有しています。アメリカの人たちは東京を思えば大都会を連想し、そこから9.11を考えてしまうのでしょう。
ユアサが東京への興味を聞いたとき、英語では「興味=関心」と同時に2つの意味が含まれるので、彼らは純粋に心の底にある「関心」に基づいて回答してくれたのです。
ソチオリンピックの際もテロを案じてFBIを活用したアメリカであるので、今のアメリカ人の時代感覚も9.11の当時と同じなのだとユアサは分析します。

 

もちろん「犯罪が少ない」という回答が多かったからといって、東京は油断すべきではないでしょう。アメリカの人たちはニューヨークと東京がどこか似ており、将来に向けて案じてくれているからこそ、こういう回答をしてくれたのですから。

 

また、あの9.11以前のワールドトレードセンターには、アメリカのメディアによると、昔からスリ被害が頻繁にあるフロアーがあったともいわれています。そうした記憶が、東京の一般的な犯罪率の推移に、知的なニューヨーカーたちが関心を寄せる理由のひとつであるとも思われます。
日常的な犯罪の頻度がテロ発生の温床となりかねないというのが、アメリカ人の思考回路にあると国際弁護士ユアサは推理分析します。
だからでしょうか、犯罪の少なさに関心を持つ理由に、「日本の交番の存在がアメリカでも有名だから」と答えた人が何人もいたのです。駅のそばには交番があるという状況は、アメリカでは想像しがたいものです。

 

スリが9.11以前のワールドトレードセンターで多かったことと、公共地下鉄の多くの発着地点がワールドトレードセンターだったことが無縁でないとの思いが、彼らニューヨーカーの心情にあると思われます。交番があれば、犯人たちが目につきやすくなるし、逆に、犯人たちも行動しづらくなると、彼らが考えるのは当然のことです。
日々の駅前交番の存在感の輝きは、犯罪に関すること以外でも、観光客として道を尋ねた経験談がアメリカ人同士の口コミで広まった結果でもあるでしょう。

 

蛇足ですが、「コーヒー」の回答を聞いていて思い出したことがあります。
それは本稿で以前にも述べたマイク・マンスフィールド元駐日アメリカ大使のことです。
ユアサがワイシャツの袖を軽くめくったマイクに、時間をかけて熱いコーヒーを入れてもらった体験を原稿に記しました。
当時の日本のメディアでは、マイクが日本の女性が職場などでお茶汲みをさせられるのに無言の抗議としてこの行為を続けたとよく報道されていました。
それはほとんど正しいといえますが、同時に、動機はもう一つあるとユアサは思います。
一般的な家庭やオフィスでは、コーヒーを運ぶのはむしろ男性のほうが多いという現代アメリカ社会に忠実であろうとマイクが考えていた気がしてなりません。
マイクは、「日本社会よ、より男女平等へ!」と訴えるときも、アットホームでありたいと念じていたのではあるまいか、とユアサは分析するのです。

 

ブルーボトルコーヒーの水出しコーヒーは、夏はもちろんですが、冬でも盤石にニューヨークで最高にトレンディであります。
このコーヒーの名店は、2月のバレンタイン・ウイークには恋を語り、愛を誓う名所のひとつとしても、ニューヨーカーたちの間で極めて有名でした。
今後も、こうして愛がアットホームな雰囲気の中で語られるたびに、必ずや東京の持つ素晴らしい味わいも語られるに相違ないと、ウォール街の国際弁護士ユアサは保証します。

 

(了)

 

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