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連載第37回 「NYファッションの9月新スタート!」

日米女性の9月に対する感覚は、とても対照的と言えます。
日本では「年末までもうすぐ。さあ、この1年間の総まとめの3カ月!仕上げにかかりましょう」という時期なのに対して、アメリカの9月は新スタートなのです。

 

「9月は1年の新スタート、みんなでこれから1年間、頑張りましょう!」というタイミングこそアメリカ的な感覚です。
厳密には10月1日から新年度が始まりますが、ビッグなサマーバケーション直後は、年度の締めよりも新スタートのニュアンスが圧倒的に強いのが、ポジティブ思考のアメリカ社会の特徴なのです。

 

日本では夏から秋へと、ちょっぴりセンチメンタルな感慨にふける時期ですが、アメリカでは、いいスタートを切るために全力集中あるのみなのです。
そしてこの全力での新スタートでは、ファッションが決め手となることが、ニューヨーク女性の常識でもあるのです。

 

この点でも、四季おりおりのオフィス街でのファッショナブルな衣替えが話題となる日本と、ニューヨークではまったく異なるようです。
例えば、9月の残暑の中、汗びっしょりなのは日本のビジネス人の誇りですが、生き馬の目を抜く競争の激しいニューヨークでは、新スタートのあせりや、自信のない緊張感からくる冷や汗にも見られかねません。

 

ですから、9月のニューヨーク女性は、新スタートにふさわしい涼しげな中に落ち着き払った、自信たっぷりなファッションを好むのです。
名は体を表すと日本では言いますが、ウォール街では、ファッションにこそ真心がある、といわれています。

 

最新のニューヨーク女性たちのファッショントレンドは、ざっくり言えば単色系であると、国際弁護士ユアサは確信しています。
秋といえば、一般的にブラックの単色系が大いなるトレンドなのですが、同じ単色系のホワイトも侮れないようです。また、レッドやブルーなどそのほかの単色系(パステル・カラーも含む)にも勢いがあるのですが、今現在はホワイトとブラックが、ユアサが働く当地ニューヨークにおける日常ではやたらと目につきます。
他方、強めの色彩のコンビネーションもニューヨークトレンドの中に入りますが、その場合は単色系の鮮やかな色彩の組み合わせがしばしば活用されているようです。

 

まず、ホワイトから考えると、9月の新スタートに当たっての1年の計を立てるうえで、無限の可能性をアピールできるのでかなりの説得力に満ちています。
特に、週末もオフィスに出勤して、残暑の中で涼しげな白を鮮やかにまとい仕事をしているニューヨーク女性の姿は、同僚たちの目にも頼もしく映ります。

 

もちろん、頼もしさを感じさせるのは白だけとは限りません。個人主義社会にいるニューヨーカーの自由な色彩感覚に委ねられるのは、もちろんです。
例えば、ヒラリーはオンでもオフでも、いつ見てもとりわけ黄色を好んで着こなしていますが、今現在、アメリカ社会で最も信頼される女性の仕事人と言われています。

 

さて、一方でもうひとつのトレンドのブラックも、ニューヨークのビジネス・シーンにはぴったりはまります。ブラックは9月には重い、暑いイメージがややもすると日本社会にはあるかもしれませんが、ニューヨーク女性は残暑の中でブラックを涼しげに、しかも優しい感じで着こなしています。
アメリカではブラックは夜会服のカラーです。夜のパーティ会場はクーラーで冷え切っているのが普通なので、夜会服の色合いに似た気品のあるブラックは、ニューヨークでは自然と涼しさを発信します。

 

さて、新スタートの9月は、本格的な1年のビジョンを創造するにあたって、全米への国内出張や海外出張が目立って増えます。
こうした移動にかかるとき、ニューヨークのビジネス人のトレンドは、今年もシックな単色系が多いとされています。出張先の空港でもいきなり会議に入れるようにです。

 

ここで、ユアサの体験を通じて、9月のファッションの重要性を例示したいと思います。新しいスタートの時ほど、予想外の修羅場と遭遇することがあるものですから。

 

ニューヨークはビジネスジャングルです。
ジャングルは弱肉強食の激しい戦いが常に行われています。戦うときは服装が決まっていたほうが、攻めでも守りでも気合いの入り方が違います。

 

国際弁護士ユアサがウォール街にヘッドハントされ、出勤した初日、個室オフィスに入るとすぐに、人種差別の嫌がらせ電話が入りました。どうしたものかと、初日であったため、にわかには判断しかねたユアサは、切れた後もしばらくぼう然としていました。
ところが、ちょうどそのとき、ユアサのオフィスに同僚の1人のアメリカ人女性があいさつに来たのです。彼女はタキシードのような目に染みるブラックのスーツを、新スタートにあたって颯爽と着こなしていました。

 

楽しく会話していると、突然、電話がけたたましく鳴りました。
電話を取る前に、ユアサは彼女に嫌がらせ電話のあらましを手短に伝えました。聞き終わるやいなや、彼女はユアサの電話をむんずとつかむと、鬼の形相で怒鳴りました。
「誰なの、こんな嫌がらせをするのは! 絶対許さん!」
と。そして、彼女は驚く初対面のユアサに向き直ってニコッと笑って言いました。
「相手が勝手に電話をオフにしたわ」
一瞬のち、彼女は部屋を走って出ていきました。

 

数分後、今度はオフィスの公認会計士を連れて、ブラックスーツを揺らしながら彼女が足早に戻ってきました。その姿に頼もしさを感じたユアサでした。
そして、会計士が丁寧に人種差別の内容を聞いてくるので、ユアサは立ち上がり、ネクタイを締め直し、気持ちを落ち着かせると、彼に丁寧に説明しました。

 

ユアサが話し終わると、「ありがとう! 必ず、対処する」と彼は、渋い声と明るい笑顔で言ってくれました。以来、ユアサの身の回りで、人種差別の嫌がらせ電話は全く無くなったのです。
あとで知ったことですが、ウォール街では、FBIのすご腕捜査官出身の公認会計士を雇うことがよくあるようで、彼もその1人でした。そして、ユアサの件も何らかの解決をしたようでした。

 

こうして9月のあの日以来、同僚は真の意味で正義と信頼の同志であり、同時にいつも心から励まし合う、頼もしい仲間であると、国際弁護士ユアサは実感したのです。

 

ヘッドハントされたウォール街での新スタートから程ないころの話をもう一つ。
先の戦争で入隊後に大手術をし、奇跡的に生きのび、不自由な体で頑張り続けていたユアサの父が勤務中に倒れ、そのまま亡くなりました。アメリカのウォール街で仕事をしていたユアサは、残念ながら、父の死に目に会えませんでした。

 

そのとき、母は、ユアサに、父の最後の言葉は、「タカシには知らせるな! タカシにはウォール街の仕事がある!」であったと、国際電話で教えてくれました。
さらに、「お父さんとお母さんの思いは、ただ一つ! タカシが、絶対に笑顔で、仕事し続けることだからね!」と母は気丈に語りました。その父母の教えのとおり、ユアサは新スタートのブラックスーツに身を包み、友人たちの誰にも悲しい表情を見せず、常にユアサ・スマイルに徹しました。

 

以来何十年、元気に働き続けられているのも、すべてを知りつつ、そっと気遣うウォール街の仲間たちのおかげだと深く感謝しています。
ホワイトが、一般的に新スタートにおける限りない可能性をアピールできる色調であるのに対して、超個人主義のウォール街でのブラックは、各個人が事柄を深く心の奥底で受け止める、徹底的にタフな決意の色合いであると国際弁護士ユアサは保証します。
だからこそ、ブラックに象徴されるウォール街・ファッションには、思いを心の奥に刻み込んで、信頼に基づく行動を明るく実行するとのポリシーが表現されるのです。

 

近しい人を亡くすことは、時として自己の命が消えるよりもずっとつらいものです。
しかし、人の世にはやはり笑顔が似合うのだという考え方を、ユアサはニューヨークファッションの中でウォール街と共有した次第なのです。

 

(了)

 

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