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連載第38回  ユアサ、訪日ニューヨーク熟女の女子会に潜入

今回はユアサの友人であるアメリカ人弁護士の母親グループ6人が突然訪日し、ユアサが旅程全般のアテンドを息子から依頼され、そのニッポン観光大作戦に巻き込まれたエピソードを語ります。

 

実は、ユアサ自身が時差とペーパーワーク(書類仕事)と会議でスケジュールが目白押しだったため、熟女訪日前3日間の睡眠時間と言えば、合計わずか5時間というありさま。
しかし、早々と友人弁護士が相談役をバトンタッチしてきたので、完璧にユアサは彼女たちのネットワークに巻き込まれ、来日前から連続メール攻撃を受けていました。

 

到底、寝不足などと弱音をはける立場になかったユアサは、彼女たちの訪日を前に食事によるスタミナ補給だけは怠りませんでした。
3日間総計で、ボリューム満点のビーフステーキ3枚と、うな重7膳を食し、さらに、栄養バランスの鬼になったユアサは、ありとあらゆる緑黄色野菜とフルーツを食べまくったのです。

 

ところが、来日直前、友人弁護士からのメールが飛び込んでくると、ユアサのスタミナは一気に消耗してしまいました。
「タカシ! 母親と彼女の友人たちはメールのやり取りで、タカシが熱狂的に歓迎してくれているとの確信を得て、大いに喜んでいる! あと大事なのは、タカシと母親グループの密な連絡だけとなる」

 

徹夜続きが原因の読み間違いではありません。文面では、熱狂している主体はほかでもないユアサになっているのです。まさに、寝耳に水。
アメリカ人熟女グループのコミュニケーションの力技、恐るべし!

 

しかし、ここでひるんでは、ユアサがすたる。とりあえず、6人共通の関心事を絞れないかとメール内容をチェックしましたが、不可能でした。
日本の社会なら、代表者とメールのやり取りをすれば、自ずと目的や希望も絞り込めるところですが、相手は個人主義社会ニューヨークからやって来た熟女御一行です。そうは問屋がおろしません。

 

だれかひとりとメールしても、「この件のタカシからの返信は、自分宛てと、他のママたちのスマホにもメールを送ってほしい」などと突拍子もない条件を付けてくる。
この裏技を6人全員が繰りだすので、ユアサの頭は今までに経験したことがないくらいに混乱してしまったのです。

 

これでは目的地をまとめることなど不可能だ!
そこで、ユアサはリモ(大型高級リムジンタクシー)をずっと大きくしたバスを、とりあえず数台おさえました。最悪のシナリオとして、6人がそれぞれ別行動をする可能性と、時には6人全員で団体行動をする可能性も考えたうえの判断でした。それぞれに通訳を頼むかもしれないので、リラックスできるようにバスにしたわけです。

 

そして、1~2日をかける東京でのメイン観光を2人ずつ3組にまとめ、下町観光コース、大型ヨット周遊コース、富士五湖めぐりコースにわける段階までに、やっとこぎつけました。しかも、下町コースと大型ヨットコースはリンク可能です。
この各コースの前後の数日に、彼女たちは巧みにチーム換えしながら、大相撲、歌舞伎、日光東照宮,鎌倉大仏などのテッパンスケジュールを、さらにゴリ押ししてきます。

 

見事というしかない幅広く、多様な要望の数々。ユアサは黙々と彼女たちの希望をかなえるべく予定を組み立てました。
しかし、ここまでなら、腕利きの観光ガイドなら誰でも対応できることでしょう。
ここから先が、国際弁護士ユアサのいわば観光「交渉人」ならではの腕の見せ所でした。
ユアサはこれらのアレンジに、さらに長年の親友人脈を生かそうと考えたのです。

 

そして、暑さもやわらぎ始めた9月中旬、アメリカ人熟女6人が来日しました。
ユアサはアテンドの仕上げを急ぎました。
さっそく友人に電話すると、「あの大型ヨットなら、もう乗れるよ!」との朗報。
以前、彼らと東京湾クルーズした折に、ハーバーのドックに見事な大型ヨットが船底塗装中で、ユアサもはしごに上り、その豪華な船内を確認していたのです。あのヨットなら20人は軽く乗れるし、船内で休憩することも可能です。
隅田川はどこかロンドンのテムズ川に雰囲気が似ています。あのヨットなら優雅な川下りの旅を演出してくれること間違いなしです。

 

次は、富士五胡コース。
富士五湖に別荘を持つアメリカ人バンカーの友人に電話で意見を求めました。彼は、母親グループの中に同じウォール街のバンカーがいるのに気をよくしたらしく、富士山の雄姿を眺められる豪華な別荘を貸すことを快く了承してくれ、すぐに別荘の隣りに住む管理人夫妻に確認してもらうと言ってくれました。

 

これで、残すは下町コースだけです。
しかし、下町コースの熟女からとんでもない要望が飛び出してきたのです。踊りのお師匠さんたちやお弟子さんたちの地道な練習風景が見たいというのです。こんな要望をユアサはこれまで耳にしたことがありません。そもそもユアサは、ニューヨークの社交ダンスで鍛えられてはいますが、日本舞踊は全くの門外漢です。
下町に詳しい経営者グループの友人に矢継ぎ早に連絡を入れました。何度かの交渉のすえ、やっと練習風景を見せてもらえるアレンジを加えることができました。

 

そして、無事にアテンドした3コースを熟女たちが満喫し終えた日の夜、ユアサは最後の力を振り絞って、彼女たちを最高級日本料理店で接待したのでした。
7時ちょうどの待ち合わせでしたが、一抹の不安を覚えたユアサはひとり6時半から待っていました。
待った! 遅い! さらに待った!
ヨットからの連絡が入ったのは、アポの35分後でした。
「たぶん遅れる!」と豪華ヨットコースのニューヨーク熟女からの連絡メール。

 

出た! アポの7時をすでに35分過ぎているのに、「たぶん」です。
これぞ、究極のアメリカ人熟女女子会での殺し文句です。ニューヨークの私邸でのパーティー開始時刻に現れる招待客はまずいません。
「この程度の遅れは、アメリカでは日常茶飯事ですよ!」
ユアサが最高級日本料理レストランのマネージャーに顔をこわばらせながら言うと、彼は楽しそうに笑ってくれました。

 

そして、意外にも早く、6人はやって来ました。7時47分でした。
ところが、レストランの前でバスを降りると、熟女たちはのんきに周りの店でウィンドーショッピングを始めました。丁寧に10軒ほど廻ってから、おもむろに日本料理店の中に入ってきました。ユアサは、このころにはもう何も驚かなくなっていました。

 

ニューヨークの熟女女子会が東京で始まりました。
母親グループのパワーは予想以上でした。元重要閣僚と若い頃に勤務先で一緒であったり、有力政治家と小中高の同級生であったり・・・・。
会話の中に時々、日本人メジャーリーガーの奥さんたちは美人ぞろいだと感じるとか、日本への優しいリップサービスも女子会トークに織り交ぜてくるなど、さすがのパーティートーク術です。

 

本格コースを6人それぞれがオーダーし、一部苦手な食材を別の品に替えつつ、さらに、最高級ビフテキを足していきます。ユアサは覚えきれませんでしたが、店員さんがさすがの熟練で復唱すると、「あなたは今だけの作業で博士論文合格に値するわ!」と突っ込みます。子どもがアメリカの名門大学教授だけに迫力があるのです。
外国人観光客の対応に慣れた店員さんが大喜びしていたのを見ても、ニューヨーク熟女女子会のトーク術のレベルの高さがわかります。

 

女子会では、下町コースの熟女が、日本舞踊の20代とおぼしきお弟子さんたちがみんなスッピンで、しかも地味なのにとても美しかったと、しきりに褒めちぎっていました。
熟女たちの取材力パワーたるや、日本のメディアも立ち向かえないほど細やかで、やまとなでしこのすっぴん練習風景までを完全掌握して絶賛するのです。
このニューヨーク熟女女子会の情報収集エネルギーの量は、完全にユアサをノックアウトしていました。

 

やがて記念撮影の頃、店内に残っているのは、熟女6人とユアサの7人だけとなっていました。ハリウッド映画界の大物熟女自らが、ユアサの写真を撮ってくれました。
この9月のニューヨーク熟女女子会への全身全霊をかけたアレンジは、次のユアサへの一言で心底、報われました。
「タカシ! 次は、私たちが倍のおもてなしをするわ!」
徹夜の連続とアレンジ、そして接待はたしかにつらいもの。しかし、ニューヨーク熟女女子会の倍返しのおもてなしに比べたら、きっと何倍も平穏なのであろうと、国際弁護士ユアサは確信します。

 

(了)

 

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