みなさん、初めまして。ジョン・キムです。女性週刊誌への連載、とても緊張します(笑)。頑張りますので、どうか温かく見守ってください。
さてニュースというと、日常とはかけ離れたところで起きている印象がありますが、読み方によっては日常を鮮やかに彩る材料にすることもできます。知識を増やすことを目的としてニュースを読むことも良いでしょう。ただ、それだけだとちょっともったいない。ニュースから気づきや学びを得て、それを自分の精神性や日々の生活を豊かにするきっかけにする。いわばニュースという食材に、解釈というレシピを用いて、幸福という料理を作る。これこそ、本連載が目指すゴールです。
前置きが長くなりましたが、今日取り上げたいことは世界各地における「戦争機運の高まり」です。ガザ地区然り、ウクライナ然り、アフガニスタン然り、シリア然り。ガザ地区でのイスラエル軍の侵攻については連日報道されています。両者の自分の信じる宗教的教義への盲信に端を発する、この出口の見えない闘いは、罪の無い子供や女性そして老人を含む一般市民までを巻き込む大惨事に発展しました。幸い、ここにきて停戦に合意したというニュースがありましたが、2千人を超える失った命は二度と蘇ることができません。
歴史の教訓から同じ過ちは繰り返さないことの大切さを、我々は学校で学んだはずです。しかし実際に体験していないことへの現実感を痛感することはなかなか難しい。だからこそ、我々に求められるのは、他者への感受性であり、注意力であり、想像力。他者の痛みを自分の痛みのように感じることができれば、戦争は起きないはずです。
日常で起きるトラブルの大半もそう。他人の言動に理不尽さや不合理さを感じ、イライラした経験は誰もが持っています。私もそうでした。しかし人間、誰しも自分にとって不合理なことはしません。にもかかわらず人間関係で対立が発生してしまう理由は、人は自分のことで精一杯で、他者のことを深く理解し、思いやっていないからです。
そこで、これは私も普段から心掛けていることではありますが、自分が他者の言動から苛立ちを覚えたときは「まだ自分は相手の立場に立って物事を考えていないんだな。自分のことで精一杯だったんだな」と反省するきっかけにしています。
具体的には、相手が相手自身を理解する以上に、相手のことを理解するように心掛けること。相手が相手自身を愛する以上に、相手のことを愛するように心掛けること。相手が言葉で表現し切れていない部分まで読み取るつもりで、全身で感じるように相手の話を深く聞く姿勢を心掛けること。そして自分の発する言葉が相手にどういう影響を与えるのか、を声に出す前に想像することを心掛けること。これらのことができると、その姿勢が相手に伝わり、相手の自分に対する信頼が一気に増してきます。ここまでくると、言葉を超えた“魂の対話”ができるようになります。
物事を妄信的な原理主義的に捉えると、対話が成立しません。そこには相手を心から理解しようとする気持ちがないからです。その場合、どんなに表面的に優しい言葉が交わされても、そこに心の底からの融和というのは生まれません。自分の意見を持つことも大事ですが、他者の意見に耳を傾け、もしそこに自分も共感する正義があるとすれば、それに沿って自分の意見を修正することも立派な勇気であり、知性の表れだと思います。
相手や相手の意見に対する最終判断を少し留保し、まずは相手に対する深い理解を心掛けてはいかがでしょうか。それができれば、日常はより穏やかで温かいものに見えてくるはずです。
ジョン・キム 吉本ばなな 「ジョンとばななの幸せって何ですか」(光文社刊・本体1,000円+税)
吉本ばなな
1964年東京生まれ。’87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。’88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、’89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、’95年『アムリタ』で紫式部文学賞、’00年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞をそれぞれ受賞。海外でも多くの賞を受賞し、作品は30カ国以上で翻訳・出版されている。近著に『鳥たち』(集英社刊)、『ふなふな船橋』(朝日新聞出版社刊)など。