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春を目前にしたシーズンになると例年、街にはリクルートスーツを着た就活生で溢れていました。しかし今年はそれが目につきにくくなっていることを、皆さんはお気づきになりましたか。

 

実は今年(16年卒の卒業生)から、就職活動における採用選考の開始日が4年生の8月へ後ろ倒しになったのです。今まで大学生は、卒業・修了予定年度の4月1日から卒業・修了までの最大12カ月間、採用選考活動に臨むことができました。それが、16年卒業予定の大学4年生から採用選考の解禁が8月1日になるのです。単純計算すると、採用選考活動に臨むための期間がこれまでの3分の2に短縮されることになります。

 

これは経団連の協定に基づくものですが、その協定が結ばれるようになったのには「就活時期の長期化によって、学業に支障が出てしまう」という大学や政府からの強い要請がありました。私は素晴らしい改善だと思いますが、就活生にしてみれば就職先決定までの時期が短くなり「就職先が決まらないかもしれない」という不安もあるようです。彼らにとって、就活というのは自分の社会という未知なる世界への第一歩なのです。

 

大学生というのは、人生のなかで最も輝かしい時期です。しかし、最も悩みの多い時期でもあります。それもそのはず、彼らはまだ自分の力を実社会で試したことがないからです。だから、自分が実社会でどれくらい通用するのかもわからない。なんでもできそうな気もするし、なにもできないような気もする。大学までは、親が敷いたレールの上を走れば、それなりに安定した生活を送ることができました。

 

しかし、大学を卒業すると状況は一変します。社会人になった途端、社会は大学とはまったく異なるルールのもとで運用されていることに段々と気づくようになるのです。大学時代は、権威は適当に避けて通れば良かった。お金は自分から大学に払うからです。しかし会社に入ると、今度はお金をもらう立場になる。会社という消費者に対し、自分が供給者としてサービスを提供しなければならないのです。

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特に今の景気だと、「自分の会社という消費者に見放されると永遠に居場所を失ってしまうのではないか」という不安を感じることもあるでしょう。労働力にも賞味期限があるわけで、自分という商品を売るのは時間が経つにつれてますます難しくなる。そういう漠然とした、しかし現実的な不安が就活生の脳裏によぎるのです。

 

就活は、男女の結婚のようなものです。自分という商品の価値を自分が熟知した上で、それを相手に伝えていく工夫をすること。さらに相手の価値もしっかり認識し、その価値をさらに高めるにはどうすればよいかを提案していく。その姿勢があれば、彷徨うことはないと思います。

 

20代は凝縮、30代は疾走、40代は収穫の時期。やりたいことも大事ですが、やるべきことを徹底的にこなしていくべきです。20代はまず1人の社会人としての基本的な力を身につけること。それができた人は、30代で自分がやりたいことをしながら人生を歩んでいける可能性が高いからです。どんなときも焦らず一歩一歩力強く踏み出す。そんな瞬間瞬間を過ごしてほしいものです。

 

劇作家のバーナード・ショーは、こう言いました。「青春の素晴らしさは、それを通り過ぎてからしか、わからないものである」と。青春は、それ自体で素晴らしいものです。その真っただなかにいる自分に気づき、空を眺めて青春の素晴らしさを吟味する。そんな心の余裕を持つのも、よいのではないでしょうか。

 


ジョン・キム 吉本ばなな 「ジョンとばななの幸せって何ですか」(光文社刊・本体1,000円+税)

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吉本ばなな

1964年東京生まれ。’87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。’88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、’89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、’95年『アムリタ』で紫式部文学賞、’00年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞をそれぞれ受賞。海外でも多くの賞を受賞し、作品は30カ国以上で翻訳・出版されている。近著に『鳥たち』(集英社刊)、『ふなふな船橋』(朝日新聞出版社刊)など。

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