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このコラムは、北海道で書いています。訪れるたびに感じますが、綺麗な空気、美しい自然、美味しい料理、おおらかで優しい人々がいる北海道は、日本で移住するなら是非ここにしようと思わせるくらい素晴らしい街だと思います。

 

さて今回は「選挙権年齢の引き下げ」について取り上げたいと思います。自民、公明、民主、維新などの与野党は、選挙で投票できる選挙権の年齢を「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げるという公職選挙法改正案を国会に提出しました。選挙権年齢の改正は’45年に「25歳以上」から「20歳以上」に引き下げられて以来のことで、可決すれば70年ぶりの大改正となるそうです。

 

改正案は、早ければ来夏の参議院議員選挙から適用され、約240万人の未成年者が有権者に加わることになります。この選挙権年齢の引き下げを巡ってはこれまでも賛否両論ありましたが、そもそも先進国で選挙権年齢が18歳以上になっていないのは日本だけであり、世界のほとんどの国の選挙権は18歳以上と設定されています。

 

選挙権年齢の引き下げによって期待される効果としては、若者の政治参加を直接促すことが挙げられます。少子高齢化社会に若者の投票離れが相まって、日本ではいわゆる「シルバー・デモクラシー」といった高齢者に有利な政策が行われやすくなっている。そして、これから高齢化社会を支えるための社会保障費は年々膨らんでいきます。それは若者の将来に重い負担を強いることになりますから、将来的な方向性の決定において若者が意思表明をしていくことはとても大切です。

 

そういう意味で今回の改正案の実施には大きな期待が集まりますが、いっぽうで選挙権年齢の引き下げがどれほど選挙結果に影響を与えるかは未知数です。というのも前述のようにもともと20代の投票率は高齢者に比べて相対的に低く、今回の改正で増える約240万人も有権者全体からすれば約2%に過ぎないからです。特に「選挙に行かない若者」は深刻な社会問題となっています。’12年の衆議院議員選挙で選挙に行った20代は、10人中たったの4人。これが意味するのは、選挙権年齢の引き下げだけではなく、若者の政治への意識を高めることが日本の課題だということです。

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また、今回の選挙権年齢の改正においては懸念事項もあります。それは「少年法との関係」です。具体的には公職選挙法の選挙権年齢を「18歳以上」に引き下げるのであれば、少年法の成人年齢も「18歳未満」に引き下げるべきではないかという議論が起きているのです。その背景には、近年深刻化している少年による凶悪犯罪があります。

 

たとえば、今年2月の川崎市の中学1年生殺害事件。上村遼太君を殺害した容疑で逮捕された容疑者たちは、リーダー格の無職の少年A(18)をはじめ3人とも少年でした。現行法上はこのような凶悪事件にも少年法が適用されるため、刑期は10~15年程にしかならないと言われています。この事件直後に読売新聞が行った世論調査では、少年法の適用年齢の「18歳未満への引き下げ」について8割以上が「賛成」だったそうです。

 

民主主義社会では、権利と義務は表裏一体の関係にあります。そういう意味で、選挙権付与の年齢と少年法の対象年齢を一致させるのは自然な流れであり、世界的な傾向でもあります。ただ非行少年の矯正や保護、再犯防止を目的とした日本の少年法の本来の制定目的も尊重されるべきです。選挙権年齢が引き下げられたからといって、熟考や議論なしにすぐさま少年法の適用年齢も引き下げるべきだというのも、いささか乱暴な気がします。冷静な議論と丁寧な手続きが期待されます。


ジョン・キム 吉本ばなな 「ジョンとばななの幸せって何ですか」(光文社刊・本体1,000円+税)

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吉本ばなな

1964年東京生まれ。’87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。’88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、’89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、’95年『アムリタ』で紫式部文学賞、’00年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞をそれぞれ受賞。海外でも多くの賞を受賞し、作品は30カ国以上で翻訳・出版されている。近著に『鳥たち』(集英社刊)、『ふなふな船橋』(朝日新聞出版社刊)など。

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