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みなさん、4週にわたる吉本ばななさんとの対談はいかがでしたか。ばななさんは太陽のような方で、語り合っていると日向ぼっこをしているような気持ちにさせられます。それはきっと、誰よりも彼女が人間の闇の部分に対する感受性や他者の苦しみに対する注意力を持ち、それと向き合い、乗り越えてきた思索の歴史があるからだと思います。ばななさんには素晴らしい作品がたくさんあります。ぜひ手に取っていただければ嬉しいです。

 

さて私は、オーストリアの首都ウィーンに来ています。数年前から始めたノマド生活。ウィーンは、パリ、バルセロナ、フィレンツェに続く4番目の都市ですが、今まで住んだどこよりも住み心地のよい街だと実感しています。それもそのはず。ウィーンは米国のコンサルティング会社・マーサー社が毎年発表している「世界生活環境調査・都市ランキング」で、今年を含め6年連続で1位に輝いた都市なのです。

 

華やかさこそパリ、バルセロナやフィレンツェに少々及ばないかもしれませんが、全体的なバランスという意味ではズバ抜けている印象を受けます。そこで今回は「夢の都」ウィーンを紹介しながら、これからの時代の生活の質について考えてみたいと思います。

 

第1に、ウィーンはその景観が美しい。夢の都といわれるだけあって、立ち並ぶ歴史的な建造物は優雅で華麗な雰囲気を醸し出し、街中には馬車が走っています。なかでも私が住む旧市街地は世界遺産に登録されていて、街自体が博物館と言えるほど目を喜ばせるものがたくさんあります。

 

 

第2に、治安のよさがあります。ウィーンはヨーロッパでも犯罪率が低い街として知られています。地区にもよりますが、夜中に女性が1人で歩いても安全といわれています。実際、私も危ないことに遭遇したことが一度もありません。パリに住んでいたときは気を抜くことが許されなかったものですが、この街にいるとあたかも日本にいるかのようなホッとする安心感があります。

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第3に、街が清潔で自然との共生意識が高い。道路にゴミが落ちていることはほとんどなく、蛇口をひねるとアルプスからの綺麗な水が飲める。そして、屈指のオーガニック先進国です。有機農業地の国土に占める割合が日本では0.21%であるのに対し、オーストリアでは19.7%(12年統計)。食の先進国として知られるドイツが6%程度なので、いかに食への意識が高いかがうかがえます。

 

第4に、政治的な安定性が高く弱者に優しい福祉国家です。オーストリアはスイスと並ぶ永世中立国。地理的にはヨーロッパの真ん中に位置し、モノやヒトが活発に交差する舞台でもあります。政治的な安定度が高く、貧富の格差が小さく、国民の教育費や医療費がほぼ無料であるなど、弱者に優しい手厚い福祉政策が浸透しています。

 

第5に、ウィーンは「音楽の街」としても知られています。ウィーンはモーツァルトが住み、ベートーベンが住み、「美しく青きドナウ」で知られるヨハン・シュトラウス2世を生んだ街です。オペラハウスとしても知られるウィーン国立歌劇場では年間300回以上の公演が行われ、その様子は前に設置された大型スクリーンで生中継されます。

 

 

街を歩いても資本主義的な緊迫感はなく、人々の表情からは余裕が感じられます。決してモノがあふれる街ではなく、ミニマリスト(持たない暮らし)を体現しています。生活の質とは収入や教育、医療だけの話ではありません。利他精神に基づくコミュニティを大事にしながらもシンプルな優雅さを持ち、精神的な余裕を見いだしていくことが大切なのです。ということで次回以降、そんなウィーンの街からお送りしたいと思います。


ジョン・キム 吉本ばなな 「ジョンとばななの幸せって何ですか」(光文社刊・本体1,000円+税)

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吉本ばなな

1964年東京生まれ。’87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。’88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、’89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、’95年『アムリタ』で紫式部文学賞、’00年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞をそれぞれ受賞。海外でも多くの賞を受賞し、作品は30カ国以上で翻訳・出版されている。近著に『鳥たち』(集英社刊)、『ふなふな船橋』(朝日新聞出版社刊)など。

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