image

先週末、初めて東北に行きました。新幹線「はやぶさ」に乗って、まずは宮沢賢治を生んだ岩手県花巻市へ。そこから、さらにバスに揺られながら約1時間。今度は岩手県遠野市に着きました。現地で聞いた話によると遠野市では以前からカッパの目撃情報が相次いでおり、数年前から「カッパ捕獲許可証」を発行しているそうです。販売開始から今年で12年目、遠野市を訪れる観光客にも210円(税込み)で販売されています。毎年1万枚以上が発行されているそうですが、まだカッパを捕獲した人は現れていないそうです(笑)。

 

さて前置きが長くなりましたが、今回、遠野市を訪れたのは“ある会議”に参加するためでした。その名も「東の食の実行会議」。震災で被害を受けた東北の食産業復興を目的に昨年から行われてきたもので、産官学の有識者や現地の農業水産従事者など全国から100人を超える方々が一堂に集まり1泊2日の会議を行うのです。

 

この会議は自社の利益や競合関係を超えて建設的議論を行うだけでなく、その場で明確なアクションプランを設定。会議終了直後から会議参加者がプレーヤーとしてアクションを起こし、次の会議(来年3月に福島で開催予定)までに実体的な結果を生み出すことを目標とする。交通費や宿泊費など会議参加にかかる費用も自腹という、純粋に志一つで集まるボランタリーなものでした。

 

2日間にわたる議論はどれも気づきや学びに満ちたものでしたが、なかでも特に印象的だったのは復興大臣政務官の小泉進次郎さんがプレゼンで提示した“あるデータ”です。その主な内容は「福島沿岸部の人々の『生活満足度』を調べたところ、震災前よりも震災から4年が経過した今のほうが高い」というものでした。

 

この結果をどのように解釈すればよいか。私は次のように考えました。“不幸の経験が、幸福への感度を高める”と。日常生活のなかでは、自分がいかに恵まれているのか、なかなか気づかないものです。しかし、ある日、不幸な出来事が襲いかかってくる。我々はこのとき初めて、その前の日常がいかに幸せで感謝に値するものだったかに気づきます。過去への憧れという後悔の念が生まれます。そして時間の経過とともに状況が改善されて元の日常に戻ったとき、不幸を経験した分だけ幸福への感受性が高まるのです。私はこれこそ、進次郎さんが提示したデータを読み解く重要なカギではないかと思います。

 

また東北の方々は震災直後から復興に向けて手を取り合い、協力し合ってきました。そのため「住民同士の仲間意識や共同体意識が高まった」ことも大きいかと思います。会議2日目の朝に視察で訪れた大船渡市三陸町吉浜で、若き漁師・千葉豪さんはこう語っていました。「震災前は各自の船で漁に出て、釣った魚からの収益は各自のものでした。しかし震災によって多くの船が流されてからは残った船でみんなが漁を行い、釣った魚からの収益を町全体で分け合うようになった」と。これが物語っているのは“震災は住民同士の心の結束力を高めてくれた”ということです。

 

重要なのは、“震災がもたらした悲しみを感謝の気持ちに変えていくこと”だと思います。震災の悲しみが消えることは、もちろんこれからもないでしょう。しかし震災が教えてくれた教訓を生きている我々が日常における幸福の材料にしていくことで、犠牲になられた方々への悲しみは感謝の気持ちへと変わっていくのではないでしょうか。何かを与えるために向かった旅でしたが、最終的には大切な気づきや学びをたくさんいただいて帰ってきた旅となりました。


ジョン・キム 吉本ばなな 「ジョンとばななの幸せって何ですか」(光文社刊・本体1,000円+税)

image

吉本ばなな

1964年東京生まれ。’87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。’88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、’89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、’95年『アムリタ』で紫式部文学賞、’00年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞をそれぞれ受賞。海外でも多くの賞を受賞し、作品は30カ国以上で翻訳・出版されている。近著に『鳥たち』(集英社刊)、『ふなふな船橋』(朝日新聞出版社刊)など。