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ここにきて、少子化が加速してきているようです。去る6月5日、厚生労働省が発表した統計によると、昨年の出生数は100万3千532人で過去最少を更新。ひとりの女性が生涯に出産する子供の数の推計値である合計特殊出生率も、9年ぶりに低下に転じたそうです。

 

いっぽう高齢化の流れも止まりません。いまや男性の平均寿命は80.21歳、女性は86.61歳。高齢化率は26・8%になっています。平均寿命、高齢化のスピード、高齢化率のいずれも世界トップクラスで「高齢化三冠王」という異名もとっているほどだそうです。

 

出生率の低下と平均寿命の延びによるこうした少子高齢化の急速な進展は、中長期的には日本社会を脅かす原因になるものです。少子化が進むにつれて、社会は低年齢の人口が少なく高年齢の人口が多い「逆ピラミッドの構造」になっていきます。医療技術はどんどん発達していて、日本の医療保険制度下ではちょっとした不調でも病院にかかることができます。そのため平均寿命も延びていきますが、公的な医療費の負担も増加していきます。結果、少ない若者で、多くの高齢者の医療費を支えることになるのです。

 

この社会構造では、いずれ限界がきます。では、こうした少子高齢化による日本の衰退を防ぐ手段はあるのでしょうか。一人当たりの生産性を高めることや海外から積極的に移民を受け入れること、高齢者の再雇用を整備することも考えられますが、やはり少子化対策が必要であることは間違いありません。具体的には、出産と育児を支援する制度を充実させていくことです。

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この点、早くから少子化対策に取り組んできたフランスに学ぶ点がたくさんあります。フランスでは95年に過去最低となった出産率を回復するため、さまざまな施策が講じられてきました。女性が仕事と育児を両立しやすくするための制度、子供が多いほど課税が低くなる制度、育児手当を先進国最高の20歳にまで引き上げる施策。これらを講じた結果、06年には欧州最高水準まで出生率が回復したのです。なかでも注目すべきは、シングルマザーが働きながら何人も子供を産み、育てることを可能にする労働環境と育児支援の実施。そして事実婚など新しい家族の在り方に寛容性を持って積極的な支援をしてきたことです。

 

日本でもシングルマザー(母子家庭)の貧困が大きな社会的問題になっています。日本の母子家庭は 120 万世帯といわれ、その貧困問題が深刻化しています。統計によると、母子家庭の平均年収は一般世帯の半分にも満たないそうです。日本では貧困家庭の定義を「世帯年収約122万円未満」としていますが、12年の一般家庭での貧困率が15.1%であるのに対して、母子家庭が約9割を占めるひとり親世帯では約55%まで貧困率が跳ね上がっています。つまり母子家庭の2世帯に1世帯以上が、貧困に苦しんでいるということです。

 

日本の母子家庭は就労率が約85%と高いですが、就労による収入は低い。その主な原因としては、子育てと仕事を両立させようとすれば残業が一般化されている正社員になりづらいことが挙げられます。またこうした経済的な問題に加え、母子家庭に対する社会的な偏見、とくに未婚の母子家庭に対する偏見も根強いものがあります。

 

日本は女性の社会的な地位が向上されたとはいえ、まだまだ男性中心社会で保守的な面があります。政府の制度的支援も大事ですが、みんなで彼女たちが直面している実態に関心を持ち、より深く理解し、解決に向けて力を合わせていくことが何よりも重要ではないかと思います。


ジョン・キム 吉本ばなな 「ジョンとばななの幸せって何ですか」(光文社刊・本体1,000円+税)

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吉本ばなな

1964年東京生まれ。’87年『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。’88年『ムーンライト・シャドウ』で泉鏡花文学賞、’89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で芸術選奨文部大臣新人賞、同年『TUGUMI』で山本周五郎賞、’95年『アムリタ』で紫式部文学賞、’00年『不倫と南米』でドゥマゴ文学賞をそれぞれ受賞。海外でも多くの賞を受賞し、作品は30カ国以上で翻訳・出版されている。近著に『鳥たち』(集英社刊)、『ふなふな船橋』(朝日新聞出版社刊)など。

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