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イギリスが6月23日に行った欧州連合(EU)からの離脱を問う国民投票で、51.9 %が賛成となりEU離脱を選択しました。このまさかまさかの結果に、全世界は衝撃を受けました。イギリスはアメリカ、中国、日本、ドイツに次ぐ世界第5番目の経済大国であり、ドイツやフランスと共にEUを象徴してきた国。それだけに今回の「歴史的離婚」とも揶揄される離脱決定は、EUの将来や世界経済にも大きな不安を与えそうです。

イギリスの公式国号は「United Kingdom」で、訳すと連合王国になります。イギリスはイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの4カ国からなる連合国です。この4つの国々は、長い歴史の中で数多くの戦争などを経験しながらも最終的に支配・被支配的関係でない平和的連帯関係を築くに至った“連合のロールモデル”でもありました。ところが今回の離脱決定を受け、連合王国は“分裂王国”になっていく可能性が出てきたのです。特にイングランドと伝統的にライバル関係にあったスコットランドの独立が、現実味を帯びてきています。

そんな今回の決定で特に興味深いのは「世代間ギャップ」が深刻だったということ。イギリスがEUに加盟した73年以降の世代と、それ以前の世代とでは眺める視線がまったく異なっていました。その溝は「今回の国民投票ほどイギリス社会における世代間の対立が広がった事例はなかった」とアメリカの有力紙『ニューヨーク・タイムズ』が報道するほど。いわゆる“EU世代”と呼ばれる若年層は多文化社会への拒否感が低く、ヨーロッパ人であるというアイデンティティも既成世代よりはるかに強かったようです。

彼らには今「ビザなしでヨーロッパ中を旅行したり、留学したり、就職したりする道が途絶えるのではないか」との不安が広がっているのでしょう。実際、投票翌日にはロンドンの国会議事堂前に大勢の10代が集まり「私はイギリス人ではなく、ヨーロッパ人である」というデモが行われました。不満を示した彼らのなかには、投票権のない16~17歳の若者も相当数いたとのことです。

いっぽう高齢者にとっても、離脱に投票する理由がありました。たとえばイギリスでは通常60?65歳前後で引退し、その後は年金を受けながら老後生活を送ることになります。しかし最近は東ヨーロッパなどからの移民が急増し、彼らを支えてきた年金福祉体制が財源不足で破綻するのではないかとの懸念が広がってきていたのです。

EU域内では移動と居住の自由が与えられています。ただしEUにはイギリス、ドイツ、フランスのような豊かな国だけではなく、東ヨーロッパのような貧しい国も交ざっています。当然ながら貧しい国の国民が豊かな国へと渡り、仕事をしようとします。豊かな国には仕事が残っていて、貧しい国には労働者が残っている。両者を上手くマッチングさせると理想的な共存共栄関係を築けそうな気もしますが、そう簡単にはいかないのが現実というものです。高いポンドの価値と魅力的な福祉環境に惹かれたEU域内の労働者はイギリスへと殺到し、イギリス人の職業的安定と治安を脅かしているという認識が増えていました。

高所得層・高学歴層・若年層は離脱に反対し、低所得層・低学歴者・中高年層は離脱に賛成した今回のイギリスの国民投票。これは決してイギリスだけが直面している状況ではなく、ヒト・モノ・カネの自由な移動を基本思想とするグローバル化が抱える構造的問題ではないかと思います。そんなイギリス発の“孤立主義”が、世界に拡散されないことを願います。

 

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