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フィレンツェ出張から日本に戻ってきて、今週は家族とフランスに来ています。久しぶりのフランス、やっぱり自分の心の奥にある感性を再起動させてくれる場所でありました。毎回のことでありながら、パリのシャルル・ド・ゴール空港に降り立ったときに感じるその開放的な空気感がなんとも言えないほど心地良いです。

 

理性で感性を封印していたころの私は、機械的で理性的で効率的な意味でしか旅先の土地を捉えられませんでした。しかし理性を追い出し感性で生きていくと決めてからは、訪れる場所から滲み出る芸術的な精神性を全身で感じられるようになりました。感性が豊かになると、そして生きていることに感謝の念を抱くようになると、日常で出会うものを何一つ見逃せなくなります。一見些細にみえる存在の価値に気付き、吟味したくなります。理性で考える旅ではなく、感性で感じる旅。それは、人間の心を豊かにするのです。

 

さてみなさんは『八十日間世界一周』という小説を読んだことがありますか。タイトルのとおり80日で世界を一周する話で、私は小学生のころに読みました。次々と起きる危機一髪の展開に手は汗ばみ、ハラハラドキドキしたもの。そしていま、その著者であるジュール・ヴェルヌを生んだフランス西部のナント市に来ているのです。降り立った街は開解放感やセンスであふれていましたが、それもそのはず。ナント市はフランスの権威ある雑誌「ル・ホ?ワン」て?“最も住みやすいフランスの都市”に2年連続選ばれているそうです。

 

ただ、そこに至るまでの道のりは決して順風満帆ではありませんでした。もともと造船業を主とするフランス屈指の工業都市として栄えたナント市でしたが、70年代以降に日本の造船業が発展したあおりを受け、工業の中心が近隣都市へと移転。造船所は次々と閉鎖し、失業者が続出。次第に街全体が、その活力を失っていきました。しかしそれがいまではフランスで最も住みやすい都市へと変貌。背景には、ナント市が主導した一連の都市再生への取り組みがありました。

 

その立役者となったのが、ジャン・マルク・エロー元市長。彼は「厳しい経済状況に陥った都市を再生させるために文化事業を再生の柱として据えること」を公約に掲げ、当選。その指揮の下、90年代以降に大規模な都市再生計画を進めたそうです。いまや文化芸術で都市を再生させる取り組みが世界中で行われていますが、その先駆的な都市が、ここナント市だったのです。

 

以前からフランスと比べて日本の文化関連予算が低いことが指摘されてきました。たとえばフランスの文化関連予算は国家予算の約1%ですが、日本は約0.1%。また少し前の数字ですが、フランスの文化通信省の予算は約4千500億円相当なのに対し、日本の文化庁の予算は約1千億円でした。もちろん予算だけで一概に比較はできませんが、この数字は両国の芸術文化に対する行政側の姿勢の違いを象徴しています。そしてナント市はというと、文化関連予算が全体の約10%! 前記の数字と比べても、本気度がうかがえます。

 

もともとフランスの芸術は、王族や貴族などの特権階級だけが享受できるものでした。それが18世紀末にフランス市民革命が起き、すべての人が文化や芸術を楽しめるようにする「文化の民主化」が行われました。これが、今日のフランスの文化関連予算を大きくした要因といえます。芸術文化は生活の質を担保するうえでとても重要です。みなさんは月にどれほど時間とお金を芸術文化活動に使っていますか? 少しでもその割合を高めると、生活がより豊かなものになるかもしれません。

 

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