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料理は会話に負けないコミュニケーションの道具となります。言葉で説明出来ないことはたくさんありますね。ぎくしゃくすることもよくあります。そういうときに、子供と一緒に料理してみてください。会話では構築出来なかった関係を築くことが出来ます。「一緒に料理しようか」と言えば、子供は喜びます。2人キッチンに並んで映画『クレイマー、クレイマー』よろしく、料理をする。親子関係がさらに楽しく強固になります。辻家では毎週末、必ず一緒にキッチンに立ちます。パパが風邪のときは息子がオムレツを作ってくれたりもします。確かに、火は危ないですが、危ない危ないと言っていては何も出来ません。様子を見つつ、任せるのも大事。調理器の使い方を教えるのも、火加減の大切さを教えることも、生き物をいただくことの大事さを教えることも、大人の仕事です。キッチンは愛のスタジアムなのです。親子で料理をする。父親のレシピを息子が受け継いでいく。完成した料理を見つめる子供の目は輝いております。親としての喜び、ひとしおですね。料理を子供に教えるというのは、生きる意味のバトンを渡すということでもあります。親の役目を痛感する瞬間でもあります。一緒に作ったものを一緒に?張ることがまた大事。子供が成長していく様子は、つまり、自分が注いだ愛の結果でもあるわけです。一緒に料理をすると当然そこに会話が生まれます。一緒に作ったものを食べるときの達成感といったらありません。このような日常が人間の絆を育んでいくのです。父から息子に教えたレシピはいつの日か、その子供たちへと受け継がれていくことでしょう。一家の味は愛の歴史でもあるわけですから。

さて、今日はアサリのリゾットを。知り合いの鉄人シェフに習ったレシピをアレンジしたものです。レシピ化するのがとっても難しい。ほとんど火加減といいますか水加減といいますか、センスといいましょうか、ごはんとの対話で作られていく料理だからです。しかし、子供と一緒に「ああだこうだ」言いながら作るのに最適な料理でもあります。2人前の材料です。「米1合半、アサリはだいたい男性の手で2握り、350g程度、にんにく2片、オリーブオイル、バター、だし醤油、塩・こしょう、白ワイン、乾燥パセリ(野菜だしも)」。まず、アサリの砂抜きの基本。「(約1時間)容器にアサリを入れ、アサリが少し顔を出すくらいの水を用意します。その水に対して約3パーセントの塩を溶かし、水が飛ぶのでキッチンペーパーなどでフタをし、薄暗い場所に置いておきます」。いよいよ料理の開始。「強火でフライパンを温めそこにいきなり米1合半をぶちこみ、油などは入れず、そのまま米をいる。餅を焼くイメージです。米が熱してきたら、オリーブオイルを大さじ2程度を満遍なく振りかけます。少し混ぜ、微かに色づいてきたところで、米がひたひたになるまで水を注ぎます。(ここで野菜だしを入れてもOK)沸騰してきたら、潰したにんにく2片とアサリ投入。熱に耐えられずアサリがどんどん開いていきます。開かないのは死んでいるので、取り除いてください。アサリが開いたら、白ワインコップ1杯程度を振りかけます。アサリを酔わせるわけです。アルコールが回ったら弱火にし、ここからが勝負。米の顔色を窺いながら(つまんで食べて硬さをチェックしながら、というのも米の種類や、コンロの火力の違いで微妙に完成する時間が異なるので)、少しずつ水を足していき、火力を調整しながら12分から18分くらいの間でだいたい出来上がりです。アルデンテな感じに仕上がったら、最後にバターと塩・こしょうと乾燥パセリを振りかけ味を調えて完成です」。一緒に作った料理を子供と食べる、最高の親子の会話じゃないでしょうか?

ボナペティ!

 

エッセイで紹介されたレシピは、
辻仁成 子連れロッカー「希望回復大作戦」ムスコ飯<レシピ>で公開中!

辻仁成/つじ ひとなり

作家。東京都生まれ。’89年「ピアニシモ」ですばる文学賞、’97年「海峡の光」で芥川賞、’99年「白仏」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を受賞。映画監督、演出家としても活躍。現在はシングルファザー、パリで息子と2人暮らし。

近著に『日付変更線』(集英社刊)がある。

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