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パパが作ったマカロニ料理を息子が床にばら撒いてしまったのです。テレビに気を取られながら運んでいたんですね。一生懸命作った食べ物が台無し。カッとなって、感情に任せ怒りました。すると、めったに泣かない子が泣きだしてしまったのです。離婚の後、決して涙を流さない子でした。パパの前では歯を食いしばって生きてきたんです。パパが一生懸命作ったマカロニを落としてしまったこと、怒られたこと、我慢していたいろいろなことがいっぺんに押し寄せて悲しくなったのでしょう。その涙に私がびっくりしてしまいました。

床に落ちたマカロニの上のほうだけすくって皿に盛り直したのですが、食べられるはずもありません。それがまた涙を誘い、ふたりで黙ってテレビを見ることになるのです。「躾」と言いますけど、この字、凄いですね。美しい身体と書いて「躾」です。昔はそういう躾だったのでしょう。

でも、気をつけないといけません。大人は子供に躾という調教を押し付けてはいけませんね。私の怒り方、間違えていました。テレビをまず消すよう注意するべきでしたし、感情的になって怒ることじゃなかったです。でも、ふたりきりで生きていると、ときどき、感情が理性の先を走ることがあります。せつないですね。社会で生きていくための規範を形だけ躾るのじゃなく、経験から伝え、社会と自分との距離感や関係性を理解させてやることが、正しい躾なのかもしれません。彼がこぼした理由を説明し、そうならないよう、一緒に考えることこそが、正しい躾かもしれません。

でも、でも、怒ったことで、お互い辛くなるのだけど、そこから学ぶこともあります。ふたりで並んでテレビを見ながら、息子が、ごめんね、パパがせっかく作ったごはんを台無しにして、と言いました。いや、いいよ。あ! 冷凍しておいたミネストローネがあることを思い出しました。気を取り直してなんか作るよ、と提案をしました。うん、ぼく手伝うね、と息子。

ほら、笑顔が戻りました。

ということで本日は「辻家のミネストローネ、焼きニョッキのせ」をご紹介します。長い名前ですが、これ、お洒落なうえに絶品ですよ。お試しください。

材料です。ミネストローネ:にんにく 1片、パンチェッタ 50g、セロリ 2本、にんじん 1本、玉ねぎ 1個、トマト 3個、野菜ブイヨン 1個、水 カップ2、オリーブオイル 大さじ1、塩・こしょう 適宜、パセリ、パルメザンチーズ。

さて、作り方です。にんにくはみじん切り、トマトはくし切り。残りの野菜は同じ大きさになるよう細かく切ります。お鍋にオリーブオイルをひき、中火でにんにくの香りを出し、にんにくの香りが出たら細かく切ったパンチェッタ、残りの野菜を入れ、よく炒めます。トマトと水を加え、野菜ブイヨンも加え弱火で煮ます。途中、浮き上がったトマトの皮は取り除き、トマトを崩しながら煮込み続けます。1時間弱、水分が無くなりトロッとするまでコトコト煮込み、塩・こしょうで味を調えたら完成です。

続いて、焼きニョッキの材料です。生ニョッキ 200g、バター 20g。フライパンにバターを溶かし、ニョッキを投入。中火でゆっくりまんべんなく混ぜながら火を通し、8分から10分炒めるとふっくらしますので、最後に少し火を強め、焼き色をつけてください。お皿に水気を切ったミネストローネを敷き、焼きニョッキを添え、仕上げにみじん切りにしたパセリとパルメザンチーズをふりかけ完成となります。美しく、そして、美味しいですよ。

ボナペティ!

エッセイで紹介されたレシピは、
辻仁成 子連れロッカー「希望回復大作戦」ムスコ飯<レシピ>で公開中!

辻仁成/つじ ひとなり

作家。東京都生まれ。’89年「ピアニシモ」ですばる文学賞、’97年「海峡の光」で芥川賞、’99年「白仏」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を受賞。映画監督、演出家としても活躍。現在はシングルファザー、パリで息子と2人暮らし。

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