フランスの老料理人に、「昨今の日本人は味噌さえも造らなくなったな。日本食を世界に、と政府が推奨するのであれば、まず国民の味噌造りからだよ」と言われ奮起し、去年から味噌造りをはじめております。
ここに紹介するレシピはその翁から教わりましたが、その先輩もさらに先人から習った伝統的な手法によるものです。奥様、味噌を造ってみませんか? 確かにちょっと大変ではありますが、市販の味噌とは違う愛情たっぷりの最高に美味しい無添加の自家製味噌が出来ます。ご友人と一緒に造れば楽しさ倍増ですよ。さ、じゃあ、「手前味噌」の造り方をさっそくご説明いたしたいと思います。
甘口、まろやか系、手前味噌。材料:生麺または、乾燥麺約1㎏に対して、大豆(乾燥した状態)500g、塩300g、大豆煮汁250mlとなります。おおよその目安です。
さて、まずは初日、大豆をよく洗い、大豆の量の3倍くらいの水に浸ける(我が家では12時間以上浸けておきます)。2日目、まず大豆の水を切り、お鍋に大豆がしっかり被るくらいの水を入れ火にかける。それから水を足しながら3時間から5時間、大豆を指で挟んだ時に、ねとっと潰れるくらいまで、しっかり煮る。大豆が煮え上がってきたところで、大きめのボウルなどで麺と塩を混ぜ合わせる。(塩きりと呼ばれる工程です)生麺は塊を指でほぐし、麺全体に満遍なく塩が回るようよく混ぜること。250mlの大豆の煮汁を違う容器に取り移し、大豆の水を切る。煮上がった大豆をハンドブレンダーまたはすりこ木で丁寧にペースト状にしていく(今回私はすりこ木でやりましたが、時間もかかり、かなり大変でした〈笑〉。ぜひ、ハンドブレンダーを用意してください)。
そのとき、大豆の煮汁を適度に混ぜながら硬さを調整していく。大豆ペーストと塩きりした麺を、手でしっかり混ぜ合わせる。混ぜ終わったら容器に詰めていく。容器は熱湯またはアルコールでよく消毒した容器を使うこと。混ぜ上がった味噌の素を、空気を上手に抜きながら団子状にぎゅっと硬く握り、容器と味噌の素の間に空気が残らないよう力強くぺしっと投げつけるようにして叩きつけていく。全部容器におさまったら、げんこつで上からぎゅっと押さえ、美味しくなーれ、と唱えながら均等に空気を抜いてゆく。詰め終えたら、味噌の素の表面が平らになるように手で均す。カビをできるだけ抑えるため、表面に塩を満遍なく振る。
容器と味噌の縁にはよくカビが生えるので特に四方四隅に塩は多めに。塩を敷き詰めたら表面にラップをかける。重しをし、容器の蓋を完全に閉め完成。家の中の比較的涼しい場所に置き、発酵を待ちます。
一般的に寒仕込みと呼ばれ、1月から3月の寒い時期に味噌を仕込む理由は、雑菌が少なく発酵がゆっくり進んでいくからだそうです。このレシピは麺が大豆に対して2倍量の甘みの強い二十割味噌なので、仕込み後3カ月目くらいから食べることが出来るようですが、ゆっくり発酵させ、夏の暑い時期に発酵が進み、秋になって落ち着いた頃、お味噌はとても美味しくなっています。3~4カ月くらい経ったら一度容器の蓋を開けてみてください。
にじみ出る上澄みエキスは味噌溜まりと呼ばれ、醤油のような味わいを持っており、うちでは料理に使っています。たまり醤油はここから考案されました。周りにカビが生えていたらカビをそぎ取り、またそこに塩を振り、置いてあった場所に戻し美味しくなるまでお待ちください。
詳しいレシピと写真はこちらで!
ボナペティ!
エッセイで紹介されたレシピは、
辻仁成 子連れロッカー「希望回復大作戦」ムスコ飯<レシピ>で公開中!
辻仁成/つじ ひとなり
作家。東京都生まれ。’89年「ピアニシモ」ですばる文学賞、’97年「海峡の光」で芥川賞、’99年「白仏」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を受賞。映画監督、演出家としても活躍。現在はシングルファザー、パリで息子と2人暮らし。