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息子が中学生になってから、彼の友達が頻繁にうちに遊びに来るようになりました。父子家庭になってから、私は率先して息子に「友達を招きなよ。パパがおやつとかご飯を作ってあげるから」と言ってきました。父子家庭を明るくしたかった。息子は喜んで週末に友達を招きます。私は彼らの料理人となるわけです。もう中学生ですから、彼らもめちゃくちゃはしません。子供部屋にこもって、子供同士の会話を楽しんだり、大好きなコンピューターゲームをやっています。フランスの子供たちも日本の子たちとなんら変わりません。子供は子供なんです。

大事なのは、おやつや飲み物を出すタイミングですね。さりげなく顔をだし、「やあ、なんか作ったけど、食べない?」と言います。子供たちが覗きこみ、「わ、シェフ、美味しそう。ありがとうございます」と大抵はこういう立派な答えが返ってきます。「お父さんなのに凄いね」と言ってくる子もいます。息子の手前、父ちゃん頑張ってる感をアピールする必要も多少ありますからね(笑)。

いちばん喜ばれたのはケーキです。シンプルなチョコレートケーキやワッフル、クレープなんかも人気です。今年のムスコ飯はこういうお菓子系を中心にやっていきましょう。子供たちは私が作ったお菓子や、ちょっとしたなにかを摘まみながら、彼ららしい会話に花を咲かせています。私が拵えたものは、彼らの会話のささやかなつまみになるというわけです。嬉しいじゃないですか。会話の始まりが、「君のパパ、料理上手だよね」から始まるわけですから。

週末には、ランチを用意します。もっとも好評だったのは「明太子スパゲッティ」。彼らはこのようなものを食べたことがなかったわけです。テーブルに並んだ子供たちが笑みを浮かべて「うーん、デリッシュー(素晴らしい味です)」と唸り声を張り上げるのを少し離れた場所で聞いているのは誇らしいものです。巻きずしや天ぷらも人気でした。人生と食べることは子供時代から切っても切れない関係なんですね。苦しいときはがんがん炒めてじゃんじゃん食べるに限ります。

私が料理をやるのは簡単な理由です。子供を楽しませ、笑顔に溢れた環境で、優雅に育てたいからです。「美味しいよ、パパ、世界一。ありがとう」息子のこのひと言に勝る人生の美辞はございません。

さて、そういうわけで、今日は簡単なおやつ、もしくはご主人のビールのお供なんかに最適な一品「おたべ焼き」をご紹介しましょう。材料:焼売の皮(できる限りモチモチとしたものがよいです)。マヨネーズ、パルメザンチーズ粉、ハム、キリチーズ、塩・こしょう、七味、タバスコ、醤油、などお好みで。焼売の皮にマヨネーズを塗ります。そこに小さく刻んだキリチーズを3センチ四方のハムに挟み、中心よりちょっとずらして置き、塩、黒こしょう、七味、タバスコ、パルメザンなどをふりかけ、「おたべ」のような感じで三角形に折り畳みます。焼売の皮はモチモチしているので、焼く前の状態がおたべにそっくり。サラダ油で両面、1~2分程度、こんがりするまで焼けば完成。お父さんにはタバスコを入れましょう。間違えてお子さんが辛いのを口にしたら、「大当たり、大人の味よ!」と教えてあげてください。アレンジとして、チーズだけのもの、ツナ缶とキリとケチャップ、トマトペーストやバジルなどを入れるとイタリアン風、ベトナム風にしたければパクチー、サルサソースやハラペーニョを使えばメキシカン風なんてアレンジするのも楽しいです。工夫次第でいかようにも。みんなでカリカリ、サクサクお楽しみください。

ボナペティ!

エッセイで紹介されたレシピは、
辻仁成 子連れロッカー「希望回復大作戦」ムスコ飯<レシピ>で公開中!

辻仁成/つじ ひとなり

作家。東京都生まれ。’89年「ピアニシモ」ですばる文学賞、’97年「海峡の光」で芥川賞、’99年「白仏」で、仏フェミナ賞・外国小説賞を受賞。映画監督、演出家としても活躍。現在はシングルファザー、パリで息子と2人暮らし。

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